ライフ

賛否両論のNHK朝ドラ「純と愛」 配役には成功と女性作家分析

 TVドラマ衰退が囁かれて久しいなかで歴史的ヒットを生んだ脚本家が新作を書いたとなれば、注目されないはずがない。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が分析する。

 * * *
 視聴率40%を叩き出した「家政婦のミタ」の遊川和彦が脚本を手がけるとあって、話題を集めているNHK連続テレビ小説「純と愛」。まずは視聴率19.8%、秋のドラマの中で2位を獲得し、好調な滑り出しのようです。

 沖縄・宮古出身で「魔法の国のようなホテルを作ることが夢」というヒロイン「純」を演じる夏菜が、大阪のホテルで修行中。ドラマの評判は? 視聴者の声を見ると……ネット上のドラマ感想掲示板はうなずける点も多くて実に興味深いものが。

「ホテルの従業員なのにガサツすぎる主人公」「朝から大声で怒鳴ってウルサイ」「人の心が見える、という設定がオカルトちっくでついていけない」「超能力話はかんべんして」。

 そんな批評の一方で、「これまでの朝ドラに無い新鮮さ」「めくるめくストーリー展開にワクワク」「人間の複雑さを描こうという意欲が伝わってくる」という賞賛も。賛否がくっきり分かれています。

 そして私自身の感想を問われれば……このドラマに一票入れたい。大きな筋立てはまだよく見えていません。が、始まったばかりのドラマでも、はっきりと評価できるポイントがあります。それは間違いなく、ドラマの質を決定する要素。「配役陣」です。

 まず、母親役の森下愛子。実にゆったりとおおらか、何でも受け止めることができるほんわかぶり。一貫してスローテンポの演技は、沖縄の「海」のイメージを的確に表現できています。

 父親役の武田鉄矢は徹底して頑固な孤立ぶりを演じていて、気持ちいいくらい。兄役の速水もこみちも、すぐ女に手を出す軽薄な二枚目兄ちゃんぶりを体現しています。

 舘ひろしが演じる、大阪のホテル社長もおかしみが滲み出る。キザがしっかりと板についていて、実に安定感があります。脇でキラリと光るのが、ホテル従業員指導役の吉田羊。髪の毛は一筋も乱れていない。きちっと夜会巻きにアップし、一瞬たりともニコリとしない鬼教官の役作り。コンシェルジェ役の城田優はイケメンぶりを発揮し、宿泊部長を演じる矢島健一はサラリーマン部長をいい味で演じています。

 そして、なんと言っても、主人公の相手役、「愛」を演じる風間俊介の力量。「人の顔を見ることができない」という暗く内向的で心に問題を抱えた難しい青年の役柄を、集中力をもってブレずに演じ切る。その演技力に脱帽です。

 つまり、このドラマは、「さまざまな役どころをしかるべき場所に配置できていて、役者たち一人一人が的確な演技でそれに応えている」のです。ものごとというのは、決して単独で成り立っているのではない。他との的確なつながりとへただりによってできあがっている。まさしく「星座」のように--。

「星座」という概念によるものの見方を提示したのは、ドイツの哲学者、ヴァルター・ベンヤミンでした。

 このドラマは、ベンヤミンの「星座」論をふと思い起こさせてくれました。

 個性的な役者たちが「星座」となって、実にうまく配置され、有機的な連携を作り出している。役者たちが作り出す「星座」が、きらめいている。

 主人公のバタバタした身振り手振り、ホテル従業員としてあり得ない話し方など、過剰さには違和感もあるのですが、それをカバーして有り余る魅力がこのドラマにはある。だからこそ、多少ドタバタが耳に障っても、今後に期待をかけ一票を入れることができるのです。


関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン