芸能

夏ドラマ「堺、満島、黒谷、福士」の芝居に要注目と女性作家

 厳しい暑さのなかで鎬を削る夏ドラマ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、注目の役者をピックアップする。

 * * *
 いよいよ、7月期の新ドラマが続々スタート。各局、どんなカードを切ってくるのか。期待に胸を膨らませつつチャンネルをあわせると……同じ時代の空気を吸っているというのに、緊迫企業もの、新しい恋愛の形を見せようとするもの、凝りに凝った構成もの、役者の迫力が画面からはみ出しそうなもの……それぞれ個性的でユニークなドラマがずらり。

 物語はスタートしたばかりなので、作品がどのように転がっていくかを期待しながら楽しみたいと思いますが、まずは「注目の役者」と「キャスティングの妙味」をピックアップ。

◆堺雅人 TBS系「半沢直樹」(日曜9時)

 一回目のオンエアを見て、「この役者の持つ深みは半端ではない」と確信しました。正直に言えば、最初はさして期待していなかった。企業サラリーマンの苦悩ドラマってもう見飽きた、退屈かなというイメージを持っていたのですが……。物語が始まると、主役の表情に釘付け。堺雅人のパワーに引き込まれて拡大版の2時間が、あっという間に過ぎてしまった。

 バブル期に入行した大手銀行員・半沢直樹を演じる堺雅人。組織人の葛藤、哀しみ、苦悩といったものを、セリフなしで目だけでたしかに演技。複雑かつ明快に、人物の感情を伝えることができる役者だと、魅力をあらためて発見しました。

 NHK大河『篤姫』の時の徳川家定役も、まったく新しい将軍像を見せてくれて衝撃的でした。今回は、どこにでもいそうなサラリーマン役。ゆえにもっと難しい。役者の力がさらに発揮できるチャンスとも言え、期待が高まります。その他、男優陣の配役やテンポの良い演出も光っています。

 奇しくも、同時期に同じ原作者・池井戸潤の企業ドラマ「七つの会議」(NHK 13日~)がスタートします。こちらの主役は、東山紀之。はてさて、「半沢直樹」の迫力と哀しみにどこまで迫り伍することができるか? 注目です。

◆満島ひかり 日テレ系「Woman」(水曜10時)

 シングルマザーの青柳小春を演じる主演・満島ひかり。不慮の事故で夫に先立たれ、2人の子を抱えてサバイバルしようと格闘。か細い腕で2人の子供の手をひき、居酒屋とクリーニング屋のバイトで必死に生活費を稼き出す。アップした髪から乱れ落ちる幾筋かが、生活の困窮度を描き出していて超リアル。満島さんが、生活に苦しむシングルマザーにしか見えないから、たいしたものです。あまりにも体当たりな演技ぶり。役作りの気迫がテレビ画面からはみ出てくるほど。

 ただし。ドラマの中に描かれる、貧困や苦しみが真正面であまりに直球すぎて、視聴者は逃げどころがない。目をそらしたくなるほど辛い。胸が痛くなる。出口がない。そのあたりがこのドラマの生真面目さであり、今後難点になるかも。もちろん役者のせいではないのですが。

 あわせて、祖母役の田中裕子や小林薫の演技がいぶし銀のように光っている点も見所です。わざとらしい表情を一切作らず、淡々と背中で人生を伝える。彼らの自然体の芝居ぶりに「天性の役者勘」を感じます。

◆黒谷友香 NHKBSプレミアム「ダブルトーン」(土曜11時15分)

 民放の華やかなドラマ陣に押されてちょっと隠れがちですが、NHKBSプレミムで凝った構成の不可思議なドラマが展開中です。

 キャリアウーマンの中野由巳(中越典子)と、主婦の田村裕美(黒谷友香)は、見知らぬ関係。それなのにお互い夢の中で、相手の生活をリアルに見るようになる。そして次第に二人の生活が現実の中でクロスし始める、という実にミステリアスな展開。

 キャリアウーマンVS倦怠期の主婦。その対象をくっきりと浮き上がらせるドラマ構成ですが、「主婦」演じる黒谷友香がいい味を出しています。生活感、気の強さと弱さ、ささやかな日常の中にある主婦という生き方への疑問符と順応ぶりと。細かなリアリテイをきちんと押さえて表現できる役者。黒谷さんはこれまで「プロポーション抜群の美しいタレントさん」というイメージでしたが、リアルを表現できる女優として活躍の領域が広がりそうな気配。一方のキャリアウーマン役・中越典子も、黒谷友香と共鳴しながら新境地を開いています。

◆福士蒼汰 関西テレビ・フジテレビ系 「スターマン」(火曜10時)

「あまちゃん」の主役・アキの初恋相手として注目を浴びる福士蒼汰が、いよいよ主役級として登場。広末涼子が一目惚れする、記憶を失った年下の青年役です。

 福士くんの爽やかな笑顔は相変わらず魅力的ですが、うーむ。記憶喪失の男をむりやり自宅に引っぱり込む中年シングルマザー・広末涼子? その人権無視とすら言える無理な設定は問題です。ドラマの土台となる脚本や演出が粗っぽくて非現実的すぎて、お話についていけない。10年に1人という逸材を、大切に活かしてほしいのですが……。

 秀逸な役者はまだまだたくさん存在するはず。今後の各ドラマの展開に期待がふくらみます。

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン