芸能

空前のテレビドラマ人気 小劇場出身の舞台役者が支えている

 久々のドラマブームといえるかもしれない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、その内実を分析した。

 * * *
 この夏は「半沢直樹」「あまちゃん」の大ヒットで、俄然テレビドラマに注目が集まっています。銀行員の間でドラマが話題になったり。ドラマ視聴が男性にも広く根をおろしつつあることが、この夏の特徴と言えるのではないでしょうか。

 ほんの少し前までは、「テレビドラマは女子どもが見るもの」「くだらないから話題にしない」と断定する風潮もありました。私のコラムにもそんな感想が寄せられたりしましたし。ドラマをめぐって今、世の中の気分やメディアの論調が変化しつつある。その変化の早さにはちょっと驚かされます。

 見る人の幅が広がった原因を考えてみると……もちろん脚本やテーマ設定も一因ですが、もう一つ。登場する役者や制作陣の「存在感」が作用している、とは言えないでしょうか?

「半沢直樹」の堺雅人。「あまちゃん」のクドカン。まさしく、余人をもって代え難い存在感を放っています。「この人でなければ、この味は出せない」。そう思わせる個性や存在感がテレビドラマの世界を奥深くし、また面白くしているのでは。

 堺雅人も、クドカンも、「あまちゃん」ワールドを賑わせている松尾スズキ、荒川良々らクドカンファミリーも、あるいは渡辺えり、片桐はいり、木野花、古田新太も……共通項があります。それはみんな「小劇場」の出身者で、舞台で育ってきている、ということです。

 かつて、テレビの中の人気者は、演劇舞台とは離れた場所にいました。特に「アングラ」「小劇場」と呼ばれるマイナー系(テレビ的大御所に対して)は、触ってもいけないし踏み込んでもいけない、いわばアブナイ領域でした。もちろんその出身者が、メジャーなテレビドラマに出ることもごくごく限られていたのです。

 テレビ系人気者と、アングラ系舞台とは水と油。メジャーとマイナー、棲み分けていました。

 しかし、80年代頃から、その2つの世界を分ける境界線が溶解していったのです。つかこうへい、野田秀樹、蜷川幸雄といったアングラ劇団出身の演出家が、テレビ系人気者をあえてキャスティングし始めます。

 今や「セカイの~」と語られる蜷川氏も、40年ほど前は石橋蓮司らと小劇団を結成し、唐十郎の超難解な書き下ろしアングラ劇と格闘していた人。その後、一転して商業演劇へと進出し、東山紀之、二宮和也、松本潤といったジャニーズの面々を臆面なくキャスティング。宮沢りえも小栗旬も、そうやって生の舞台に上がり、アングラ戯曲を通じて磨かれ鍛えられていきました。

 生の舞台は怖い。観客の目が突き刺さる。やり直しが効かない。一回性の勝負をかける場所。しかもアングラの代表・唐十郎の戯曲なんて、複雑で猥雑でストーリーは絡まり合い理解は超難しい。その分、アイドルや人気タレントのイメージも破綻してしまう危険性をはらむ。ぎりぎりの緊張感ゆえにまた、眠っている才能は目覚め、磨かれていく。

 そうして鍛えられた人気者たちが、いきいきとテレビドラマで主役をはる。そんな時代がやってきた。脇を固める面々も--小林薫、大杉蓮、佐野史郎といったテレビでおなじみのあの人々もみな、アングラ舞台から育った、いぶし銀のような役者たちです。

 テレビドラマは今、その意味で一つの黄金期、収穫期を迎えている、と言えるのではないでしょうか。

関連記事

トピックス

田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告(中央)
《父・修被告よりわずかに軽い判決》母・浩子被告が浮かべていた“アルカイックスマイル”…札幌地裁は「執行猶予が妥当」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま入学から1か月、筑波大学で起こった変化 「棟に入るには学生証の提示」、出入りする関係業者にも「名札の装着、華美な服装は避けるよう指示」との証言
週刊ポスト
藤井聡太名人(時事通信フォト)
藤井聡太七冠が名人戦第2局で「AI評価値99%」から詰み筋ではない“守りの一手”を指した理由とは
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン