スポーツ

「魔術師」三原脩 延長戦満塁でヤジ将軍を代打に起用の理由

 かつてセ・パ5球団の監督を歴任し「魔術師」と呼ばれた采配で知られる監督がいた。監督として3248試合という日本記録を持つ三原脩について、スポーツライターの永谷脩氏が綴る。

 * * *
 巨人・原辰徳監督の6度目の優勝、楽天・星野仙一監督の3球団目の優勝が決まったことで、やたら目立ったのは「三原脩」の名前だ。両監督がそれぞれ三原と並んだというのが理由である。

 三原は「花は咲く時が咲かせ時」という言葉が好きだった。西鉄・稲尾和久、大洋の秋山登など、連投も辞さない選手起用で選手を短命にするとも批判されたが、「チームは勝たなければ先に進めません」と平然と言い続けた。そのかわり情報網を駆使し、選手の性格・状況はしっかりと掌握していた。

 大洋時代の1960年、近鉄から鈴木武という内野手がシーズン途中に移籍してきた。近鉄と揉めてやる気を失っており、遠征にも下駄履きの汚い格好に、風呂敷包みを抱えてやって来るような選手だった。何故獲得したのかと聞いた私に、三原は答えた。

「アイツがいつも大事に手にしている風呂敷の中身は何だと思う? 雨天用と晴天用、刃の長さが違う2足のカンガルー革製のスパイクだ。こういう職人はいざという時に役に立つ」

 その言葉通り、鈴木は堅守と俊足で大活躍、最下位だったチームの快進撃が始まった。

 ヤクルト監督時代にはこんなこともあった。1971年の巨人戦、延長10回、1死満塁の場面。代打で登場したのは、成績よりもヤジで目立つ大塚徹だった。

 打席に向かう大塚に三原が出したサインは、強攻でもスクイズでもない、「振るな」だった。大塚は打席で、1球ごとにベンチを見ては素振りをする。相手投手は必要以上に警戒して、押し出しの四球を与えてしまった。「アイツは普段からホラばかり吹いているから、そのくらいの演技をすると思って」というのが代打の起用理由。大塚は計4度のサヨナラ押し出し(日本記録)を勝ち得ている。

 アテ馬、ワンポイント、二刀流と数々の弱者の兵法を編み出した三原。数字こそ並んだ原と星野だが、まだまだその域にはほど遠い。

※週刊ポスト2013年10月18日号

関連記事

トピックス

元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカル
【ニコラス・ケイジと共演も】「目標は二階堂ふみ、沢尻エリカ」グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカルの「すべてをさらけ出す覚悟」
週刊ポスト
阪神・藤川球児監督と、ヘッドコーチに就任した和田豊・元監督(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督 和田豊・元監督が「18歳年上のヘッドコーチ」就任の思惑と不安 几帳面さ、忠実さに評価の声も「何かあった時に責任を取る身代わりでは」の指摘も
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン