もっともルイス・フロイスはその20年後に「日本人は野犬、鶴、大猿、猫、生の海草を好む。牛肉は食べないが好む」と記している。食べないのに好むというのはおかしな話だ。「食べない(ことになっている)が好む」というカッコ書きがすけて見える。
その後、江戸時代に入っても牛肉を食べた隠れキリシタンがはりつけ首に処せられたかと思えば、彦根藩では牛肉の味噌漬けが考案され、徳川綱吉が生類憐れみの例を発したかと思えば両国に猪料理屋の「豊田屋」が開店。中国地方で牛の屠殺が多いからと吟味を厳しくしたのに兵庫あたりでは牛の干し肉がよく売れるという、いたちごっこ的な展開が全国で繰り広げられた。
結局、明治を待たずになし崩し的に肉食は広まることに。安政年間に大阪で牛鍋を食した福沢諭吉のほか、「豚一様」と呼ばれるほど豚肉好きだったという15代将軍徳川慶喜など、進歩的な人間ほど肉を好んだという。こうした歴史の物語に思いを馳せながら、「夏バテ防止に牛」としゃれ込むのもいい。