そもそも、タイトルがすでに、謎を示しているのです。『○○妻』。一本とられました。久しぶりにドラマからとまどいを覚え、心地よい不気味さに包まれました。
このとまどい、何かに似ている。過去にたしかに経験したことがある感覚……そうだ。日本を代表する前衛小説家・安部公房の作品に初めて触れた時の、あの感じ。『壁』『箱男』『砂の女』『棒になった男』……不条理世界を描き出した小説から受け取った、妙な違和感とスリル、緊張感を思い出しました。
世の中には、かっちりとしたルールがあり、その「決まり」に沿ってきちんと人が動いていく。でも、よく考えると、その「決まり」自体が不可思議で不条理。現実の夫婦関係も、そうなのだとしたら。『○○妻』に登場する二人の契約関係はどうなのか……。
脚本担当は遊川和彦。振り返れば、視聴率40%を記録したあの『家政婦のミタ』も、笑わない家政婦が業務命令でどんな残酷なことも実行するという、妙なルールがバネとなり、不条理な匂いが漂っていました。
ドラマという領域から、野心的な試みが生まれてくる今。かつて、前衛的世界を生み出してきたのは純文学。その純文学が果たしていた役割を今、ドラマ界が担い始めているのでしょうか。
『○○妻』は、最後までダレることなく、心地よい不気味な緊張感を維持してほしい。○○に何が入るのか、謎が解けるまで。