良いと思ったものはなんでも取り入れながら成長してきたのが石川のスタイルだったが、この時は本人も「うまくいかせよう、いかせようというのが空回りしている感じ」と反省を口にしている。
そこには焦りが表われていたと勝美氏は見ている。
「カウンターバランスの使用は私が止めさせました。確かに道具を変えることで気分転換となり、一時的にスコアがよくなることもあるでしょう。しかし、みんなが使っているものならまだしも、誰も使っていない道具を使うのは気分だけの問題。私から見れば新しい道具を選んだのではなく、逃げたとしか思えなかった。
遼からは月に3回ぐらい国際電話で相談がありますが、ほとんどが“パターを変えてみようと思う”“あのウエッジを試したい”といった内容です。技術不足を補うために様々な道具を試したいと思っているのかもしれないが、その“迷い”から抜け出すには技術を磨くしかない。
例えば1メートルのパットを外すのは、単に10回に1回外してしまう程度の技術だから。道具の問題ではなく実力なんです。これまで遼には“心を強くするには練習しかない”と指導してきましたが、思うような成績が出せない焦りから道具に逃げたのだと思います」
さらに今の石川の苦境は、これまでの日本人選手が米ツアーに跳ね返されてきた環境の問題でもないと勝美氏はいう。
「環境だけでいえば遼は恵まれている。日本人選手の最大の壁となる語学は問題がないし、米ツアーの若い選手に友達も多い。体調も万全です。一時悩んでいた腰痛も完治した。遼は“寝ているか、メシを食っているか、ゴルフをしている”といっています(笑い)。
芝質が違う、戦う相手が強い、移動がハード、アウエーのギャラリーなど、すべて想定内。遼にとって米ツアーが想像以上の場所というわけではなかった。プロに転向する時にも、グリーンが速く、距離も長いといった不安材料がたくさんありながら、遼はこなしていった。練習さえ重ねれば、今回も乗り越えられると思っています」
※週刊ポスト2015年5月22日号