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2015.06.28 16:00  週刊ポスト

【著者に訊け】中島京子氏 介護体験描く小説『長いお別れ』

「この遊園地の話はもちろん創作ですけど、GPSは父も持っていました。結局、全地球規模で測位されても全然有難くないんですよね。あっ、お父さん新宿にいる、今度は電車に乗ったって、画面の赤い点を電話越しに娘たちが見守る図ってよく考えると滑稽ですし、最新機器と今そこにある危機の、ズレ加減が半端ない(笑い)。

 昇平のように通い慣れた場所から帰れなくなる人は多いらしく、家にいても、生まれ故郷に連れて行っても、『うちに帰る』と言って出て行っちゃうんですね。それがどんな本能かはわかりません。ただお姑さんを介護されていた母の友達が『私にもこういう面白いことがあった、あった』と笑ってくれて、そんな風に読んでいただけるなら私も書いた甲斐があります」

 10年といっても家族には様々な局面がある。アメリカの今村家を曜子と訪れた昇平が、ホームパーティで今村の元恋人〈ミチコ〉となぜか昔話で盛り上がって婿を慌てさせたり、30代半ばで同棲を解消した芙美に新たな出会いがあったり…。潤の童貞喪失や45を過ぎた菜奈の妊娠。3.11の直後、国際電話だけはよく繋がり、父の〈そりゃなあ、ゆーっとするんだな〉という意味不明な言葉が芙美を慰める「つながらないものたち」など、言葉や記憶の喪失を超えた家族の関係性がいい。

「10年経てば孫は成長し、芙美も新しい恋くらいする。昇平の病気の進行を時系列で追いつつ、それだけではない話にしたかったんです。

 父もお茶のことをドアと言ったり、早い段階で単語の混乱が起き、もっと進むと言葉ともつかない言葉を話し始めた。ただ私たちを慰めてくれているのはわかるし、『ガーン、父が自分を忘れてしまった』とは思わなかったんですね。『もうお父さん、また忘れちゃって~』みたいな感じで母や姉も接していたし、最期までプライドだけは高かった父自身、看護師さんに赤ちゃん扱いされたり、家族からのけ者にされるのをとても嫌がってました」

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