鈴木:地方の現場作業員のなかにもヤクザを気取って刺青を入れている人は少なくない。地方コミュニティではヤクザは一種の権力者。それを模倣して、エセヤクザとして肩で風を切って歩きたいのでしょうね。
溝口:アウトローに憧れる人はどんな社会にもいますね。全世界共通の体質です。しかし映画や大衆小説のヤクザはあくまで物語。現実の暴力団とは別物です。
鈴木:ただ、60代から70代のヤクザにインタビューすると「(高倉)健さんに憧れた」という動機で暴力団の世界に入った人がとても多い。
溝口:しかし、今はヤクザ映画を見る若者なんてほとんどいないから、その動機で入る人もいなくなった。
鈴木:そうですね。1973年に公開された映画『山口組三代目』は、三代目山口組の田岡一雄組長を描いて大ヒットしましたが、その後、ヤクザを美化しているとして警察が制作した東映に圧力をかけ続けました。そうした警察の地道な努力が功を奏し、ヤクザ映画の影響力が弱くなったと思います。
●すずき・ともひこ/1966年、北海道生まれ。『実話時代』編集などを経て、フリージャーナリストに。『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)、『山口組 分裂抗争の全内幕』(宝島社、共著)など著書多数。
●みぞぐち・あつし/1942年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。『食肉の帝王』で講談社ノンフィクション賞を受賞。『暴力団』『続・暴力団』(ともに新潮新書)、『新装版 ヤクザ崩壊 半グレ勃興』(講談社+α文庫)など著書多数。
※SAPIO2016年4月号