認知症の母の介護を経験した、『「ペコロスの母」に学ぶ ボケて幸せな生き方』(小学館)の著者、岡野雄一さんもホッとしたと胸をなでおろす。

「もし判決が違う方向に向いたら、認知症の家族を閉じ込めるしかないという事態になりかねない。もしそんなことになったら、“あの家には近づかないほうがいい”なんて、ますます孤立してしまう。それが当たり前になってしまう時代が来そうな気がしていたので、この判決で扉が開いたような感じがします。

 介護というのは本当に大変で、名古屋のご家族の場合は、奥さんも、息子さんも、息子さんのお嫁さんまで介護をしていてよくやっていらしたと思います。それでもこのような事故が起きてしまう。介護が原因で離婚しちゃうような人もいるなか、こういう事故が起こる可能性は他人事ではありませんから」

 ただし、だからといって、これが本当に“円満解決”といえるかどうかは疑問符がついてしまう。実際、インターネット上には、今回の判決に“安堵”という言葉とともに、こんな意見もあった。

「もし、息子が同居したら監督責任を問われていたのか?」

「介護すればするほど責任を負うなんて、矛盾していないか? だったら家族はみんな同居を避けるんじゃないか。認知症になったら施設に入れようとなるのではないか?」

「JRという企業相手だからこれでいいけど、企業も振替輸送とかで被害が出たのは事実だし、もし被害者が死んでいたりしたらこれでいいといえるのか」

 介護コンサルタントの山田滋さんは、こんな問題を指摘する。

「仮にこの家族に専業主婦の娘がいて、父を献身的に介護をしていたらどうなるのでしょうか。間違いなく監督義務者責任を問われるでしょう。つまり、介護力が充分な家族が献身的に介護すればするほど、監督義務者の責任が問われるのです。当然、きょうだい間で認知症の親の引き取りを拒んだり、あまり熱心にかかわらない方が無難、中には、家から出さなければいいと考える家族も出てくるかもしれません」

 他にも見落としてはいけない問題がある。もしこれが、企業相手でなく個人に損害を与えていたらどうなるか? もし、認知症患者の行動によって、夫や妻、あるいは幼い子供など、最愛の人の命が奪われたら…。

※女性セブン2016年3月24日号

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