溝口:分裂された側の六代目山口組の中でも、神戸山口組に対する抗争は「やるなら名古屋(弘道会)がやればいい。わしらは知らん」と、本心ではそう考えている連中が多いんだろうね。

鈴木:そう思います。でも弘道会も大組織だから、弘道会内部でも「うちはやらない。○○さんのところがやるべきだ」と考えている。

 結局、抗争できないのは実行犯がうたって(自白して)しまうからでしょう。昔は捨て駒のヒットマンを仕立てればよかった。しかしいまはよほど芯が強く、信念があって自白しないヤツでなければつとまらない。取り調べで落ちてしまえば、実行を命じた幹部や組長も一網打尽でやられてしまう。

溝口:懲役が長くなったから、ヤクザ映画のように出所後、幹部になれるわけでもないからね。出てきたときに組自体があるか分からない。

鈴木:先ほど溝口さんが指摘したように親分と子分の絆がなくなり、意思疎通ができていないから、みんな疑心暗鬼です。親分は使用者責任が問われるから、「抗争を起こすぞ。やったヤツは最後まで面倒を見る」とは絶対に言えない。

 昔なら若い衆は親分に言われなくとも、阿吽の呼吸で動けたのでしょうが、今はそれもできない。それが現状でしょう。

溝口:だから、六代目側が不利なのは間違いない。そもそも山口組を割ったのは神戸側。六代目側は神戸側に報復を加えるのが彼らにとっての筋ですが、それができない。

鈴木:警察も手ぐすね引いて待っていますからね。地方の名もない暴力団を取り締まるより山口組のほうが何倍も効果がある。

 警察は縦割りだから大阪、兵庫、愛知の各府県警が手柄を取ろうと張り合っている。何かあればすぐに警察が飛んでくる。抗争を起こせる状況ではないですね。

 とはいえヤクザは、抗争を起こさなければ、存在意義が脅かされると思っている。山口組は関東のヤクザが暴力事件を回避するのを見て「ヤクザのくせにケンカもできねえのか」とバカにしてきた。その立場が逆転しました。

●すずき・ともひこ/1966年、北海道生まれ。『実話時代』編集などを経て、フリージャーナリストに。『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)、『山口組 分裂抗争の全内幕』(宝島社、共著)など著書多数。

●みぞぐち・あつし/1942年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。『食肉の帝王』で講談社ノンフィクション賞を受賞。『暴力団』『続・暴力団』(ともに新潮新書)、『新装版 ヤクザ崩壊 半グレ勃興』(講談社+α文庫)など著書多数。

※SAPIO2016年4月号

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