これだけ“変人ヒーロー”がそろった最大の理由は、エンタメ性の高さ。大物俳優が変人ならではの発想や行動を駆使する姿は映像映えしますし、奇想天外な事件解決はインパクト十分です。また、「変人が醸し出す笑いがアクセントになり、シリアスな作風になりすぎない」というバランサーとしての意味合いも大きいでしょう。
さらに、「人間離れした能力を持っていても違和感がない」という面もポイント。たとえば、普通の刑事が解決までに2話かかる事件も、変人なら1話完結を成立させられます。最近の視聴者はせっかちで、週またぎの事件解決では納得しないだけに、変人ヒーローの設定は制作サイドにとって便利なのです。
もう1点、「変人ヒーローの周りには、必ず振り回されるマジメな人がいて、そのコントラストが面白い」という側面も大きいでしょう。秋ドラマでも、織田さんに振り回されるディーン・フジオカさん、玉木宏さんに振り回される高嶋政宏さん、唐沢寿明さんに振り回される窪田正孝さん、阿部寛さんに振り回される香川照之さんの演技や、2人のかけ合いが見どころのひとつになります。
織田裕二、玉木宏、唐沢寿明、阿部寛、水谷豊…人気と実力を兼ね備えた主演俳優たちが、それぞれどんな変人ヒーロー像を見せるのか? 同時期にそろい踏みしたことで、われわれ視聴者には見比べる楽しみが生まれました。もちろん、痛快な事件解決劇を満喫するもよし、あれこれ推理して犯人やトリックを当てるもよし。この秋は刑事・事件ドラマを存分に楽しんでみてはいかがでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。