前述の通り、年間3500万円という費用が最大のネックとなるが、保険が適用されれば患者が全額を負担するわけではない。
「日本には、医療費の自己負担が一定限度を超えると軽減される『高額療養費制度』があります。自己負担額は収入によって異なりますが、月15万円を超えることはまずないでしょう。残りの年3000万円ほどは国の負担になります」(前出・田辺さん)
ただし、保険の利かない自由診療では、全額が患者の自己負担になる。乳がんが肺に転移した麻央のケースではどうだろうか。前出の田辺さんは「保険は適用されない」と指摘する。
「(今年6月にがんを公表した)小林麻央さんの場合、肺に転移してもがんの種類はあくまで『乳がん』です。肺にあるがんは『転移性肺がん』と呼ばれ、現在のルールでは、オプジーボを使っても保険は適用されません」
現在、腎細胞がんや悪性リンパ腫の一種などでオプジーボの保険適用を申請中だ。さらに胃がん、食道がん、子宮頸がんなど多くのがんで臨床試験が進んでいる。今のところそれらのがんには保険は利かないが、一定の効果が見込まれているということに他ならない。
米国でオプジーボと同様の仕組みの薬が、乳がんに効くかどうかの研究が行われた。研究チームは、それまでの治療法では手の施しようがないタイプの乳がんに侵され、しかもすでに他部位に転移している患者21人に新薬を投与した。
その結果、4分の1以上の患者に効果があり、そのうち2人はがん細胞が縮小、2人は検査でがん細胞が検出されない「寛解」と呼ばれる状態になったという。今までの医療では太刀打ちできなかった末期の乳がん患者のがん細胞が、体から消えたのである。
もし麻央が自由診療でオプジーボを使うなら、体重など考えると薬代だけでも年間2500万円ほどの治療費が必要となる。しかも1年で治療が終わるとは限らない。簡単に払える金額ではない。また、自由診療はリスクを伴うことも無視できない。
「オプジーボには血球が減って感染症になるなど、さまざまな副作用の危険があります。個人経営のクリニックなどが海外から輸入した免疫チェックポイント阻害薬を患者に適切に投与せず、予期せぬ副作用に対応できないケースもあります。保険適用外の薬は安全性が確立されておらず、さまざまなリスクがあるんです」(グランドハイメディック倶楽部理事で、元国立がんセンターがん予防・検診研究センター・センター長の森山紀之さん)
もし自由診療で使用するにしても、副作用への対応ができるような設備の整った病院で行わなければならない。医療は日進月歩で進化するが、まだまだ限界も多い。
末期がんを明かしたブログで麻央はこう綴った。
《5年後も10年後も生きたいのだーっ》
※女性セブン2016年10月27日号