「人々が不安になった時、死生観も含めて一般社会の持つ価値観とは別の価値観を提示して、安心感を与えてくれるのが宗教です。つまり宗教とは、そもそもが現世へのアンチテーゼでもある。だから、必要だけど危険です。バブル時代の末期には世の中がさまざまな閉塞感で覆われて、多くの人が新たな価値観を求めていた。そんな人々の受け皿のひとつがオウム真理教だったんです」
世の中が金儲けに走ったバブル期の新宗教では、金銭関係のさまざまなトラブルも生じた。なかでも批判を浴びたのは、韓国で生まれたキリスト教系の宗教と公称する統一教会が、壷や印鑑などを高額で売り付ける「霊感商法」だった。
統一教会は1992年に教祖の指示で初対面の信者同士が結婚する合同結婚式を韓国のソウルオリンピック主競技場で開催して、歌手の桜田淳子、元新体操選手の山﨑浩子が参加した。
当時、霊感商法が批判を集めていたこともあり、統一教会は日本のメディアから激しくバッシングされた。そんな新宗教に対する日本人のネガティブな感情が頂点に達したのが、1995年の地下鉄サリン事件だった。
この年の1月17日に阪神・淡路大震災が発生した。その混乱最中の3月20日、オウム信者が都内の地下鉄に猛毒のサリンを撒き、13人が死亡、約6300人が重軽傷を負う大惨事が発生した。
その2日後、警視庁はオウム真理教の施設25か所を一斉捜索し、5月16日に麻原彰晃を逮捕。国民は捜査の進展を固唾をのんで見守った。
オウムによる未曾有のテロは、日本人の宗教の見方を大きく変えた。哲学者で津田塾大学学芸部教授の萓野稔人氏が指摘する。
「もともと日本人は自分に迷惑さえかからなければ、誰がどの宗教を信じようが寛容に受け止めていました。しかし、地下鉄サリン事件のように人の生活に介入して平穏を乱すテロのようなことが起きると、日本人は極端な拒絶反応を示します。オウム事件後、日本人は宗教に対して、非常に警戒心を抱くようになりました」
※女性セブン2017年3月9日号