アミ族のふるさと、台東に向かった。台東には台北から台湾高鉄(新幹線)で高雄まで下り、南回りの台湾鉄道(在来線)で太平洋を右手に見ながら2時間で着く。飛行機で飛ぶ方が速いが亜熱帯から熱帯に変化する景色を見られる台湾半周のこのコースが私は好きだ。台東の自然の「色」は台北や高雄とはまるで違う。染みこむような海のブルーと山のグリーンに包まれた世界が眼下に広がる。

 1970年代初期、その環境で育まれた一人の少年が英雄になった。後に中日ドラゴンズで活躍した郭源治だ。彼もまた、台東出身のアミ族である。少年野球の世界大会でエースとして優勝旗をもたらし、台湾全土が熱狂した。その郭源治に刺激を受けて小学校5年から野球を始めたのが、陽岱鋼の叔父、陽介仁だった。台東市内の野球場で陽介仁と会った。

「アミ族は漢人に比べて、弱く、貧しい、と子供心に信じていたのに、郭源治は世界で大活躍した。彼のようになりたいと思いました」

 陽介仁は高校、大学で野球特待生となり、アンダースローの投手として日本のノンプロで活躍した。ある年、陽介仁がオフシーズンで台東に戻ると、兄の息子が真剣な眼差しで、問いかけてきた。

「おじさん、野球を教えて。おじさんみたいに日本で野球がしたい」

 彼こそ、当時小学生低学年の陽岱鋼だった。陽介仁はこう答えた。

「野球の練習はつらいぞ。簡単にできるものじゃない。テストをしよう。キャッチボールでボールを一度も落とさなかったら合格だ」

 陽介仁は最初軽くボールを投げたが、陽岱鋼があまりに簡単に捕球してしまう。力を入れて投げても一球も落とさなかった。

「才能がある、と思いましたね。それから岱鋼は学校が終わると午後に家に帰って、ずっと日が暮れるまで壁にボールを投げているのです。『有信仰的孩子(信念の強い子)』だと確信しました。今日の活躍は不思議ではありません」

 陽岱鋼の2人の兄はすでに野球を始めていた。ソフトバンクで投手として所属し、現在台湾プロ野球で野手に転じた陽耀勲と日本の独立リーグなどに所属した陽品華である。陽岱鋼は素早く頭角を現した。抜群の運動神経。足の速さ。目の良さ。何より、周囲に「棒球小博士(少年野球博士)」と呼ばれるほど野球に精通し、どんなポジションでもこなした。

 陽岱鋼は福岡第一高校にスカウトされ、高校時代に39本塁打の記録を残した。ドラフト一位で日本ハムに入団し、今年、大型FAで巨人に入団した。いま日本で最も注目される台湾出身の野球選手である。興味深いのは、郭源治、陽岱鋼ら優れた選手が、人口わずか20万人の台東から次々と輩出されていることだ。その背景を日台野球関係者に取材すると、冒頭に紹介したKANOとの接点が浮かびあがってきた。

関連キーワード

トピックス

「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(容疑者の高校時代の卒業アルバム/容疑者の自宅)
「軍歌や歌謡曲を大声で歌っていた…」平原政徳容疑者、鑑定留置の結果は“心神耗弱”状態 近隣住民が見ていた素行「スピーカーを通して叫ぶ」【九州・女子中学生刺殺】
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン