そんな今日的な問題意識も孕みつつ、本書は大人の成長小説として読めるのがいい。例えば3期目の卒業式。我が子も含む卒業生に贈った杉江会長の祝辞は、子供と大人の過渡期にある彼らへの元少年からのエールとして、誰の心をも打つ。彼は書く。〈PTAに参加することで、自分でも知らなかった内面の扉が開いたような気さえする〉〈我が子には感謝してもしきれないのである。本当にありがとう〉

「つまり全ては誰のためでもなく自分のためで、自分の子も人の子も同じように思える気持ちが育ったことに自分でも驚いた。それが会長をやって一番よかったと思うことの一つです」

 そんな本来的で嘘のない境地にたどり着けて、彼は本当に果報者だ。大人も、いや大人こそ成長できると教えてくれるこの体験記は、実は普遍的で、思わずグッとくるくらい、イイ本なのだった。

【プロフィール】すぎえ・まつこい/1968年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。在学中は推理小説同好会に所属。会社員を経てフリーライターに。「人事や営業部時代の経験が、PTAでも生きた気がします」。ミステリーや映画評論等で活躍し、著書に『読み出したら止まらない! 海外ミステリーマストリード100』『路地裏の迷宮踏査』『東海道でしょう!』『桃月庵白酒と落語十三夜』等。藤原審爾『新宿警察』の再刊監修や映画のノベライズも多数。176cm、105kg、B型。

■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光

※週刊ポスト2017年6月23日号

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