背中にも足の裏にも目があり、土俵を味方につける。立ち合いに変化した場合も、安美錦にいたっては卑怯なことではない。観客の目に「相手が駆け引きに負けた」と映る。朝青龍戦では、自分のペースに巻き込んでなめらかに押し出した。
安美錦の相撲は、ときどきシルヴィ・ギエムのバレエを思い出させる。共通しているのは「いったい、目の前でなにが起こっているのだろう」とショックを受ける点。もはや相撲ではないのかもしれない、とすら思う。「安美錦流」という、芸術に昇華してしまっている。ゾクゾクしたくて、安美錦の登場を待っている。(この項続く)
※週刊ポスト2017年7月21・28日号