テレビ局側がミュージシャンを起用する最大の狙いは、「独特な存在感で物語のアクセントになれる」から。パッと見たビジュアルだけでなく、個性あふれる生き方からにじみ出るインパクトの強さや“異物感”が期待されています。
実際、シシド・カフカさんは不倫女性、コムアイさんは愛人、ACEさんとDOTAMAさんは闇金の取り立て屋、尾崎さんは主人公の未来を暗示するドラマオリジナルのキーマンと、それぞれキャラクターの濃い役を演じていますし、登場からわずか数秒で強いインパクトを残しています。
私がキャスティング担当の民放ドラマプロデューサーに取材した中では、「演技力よりも存在感が重視される役は意外に多く、ミュージシャンがはまりやすい」「ミュージシャンには俳優にないオーラがあるし、知名度の低い若手・中堅俳優よりも優先されるときがある」という声がありました。
もう1点、見逃せないのは、「ミュージシャンならではの表現力に期待している。むしろボーカリスト以外のほうが面白い人材は多い」という声。ピエール瀧さん、金子ノブアキさん、浜野謙太さんらの成功によって、視聴者もボーカリスト以外の演技に対する期待感が増しているのです。
余談ですが、プロデューサーの思惑として、「連ドラで起用される脇役俳優がかぶりがちなので、マンネリを回避したい」という本音も聞けました。ミュージシャンの起用は、プロデューサーとしてのセンスを示しやすく、ローリスク・ハイリターンが期待できるため、積極起用が続いているようです。
◆ミュージシャンを取り巻く厳しさと自由