「老後の資金計画で最も重視されるのがマイホームのローン。定年後に月々の返済が残らないよう、定年時に退職金の一部や貯金を取り崩しても残債を一括完済する人が多い。そして65歳以降は残った退職金(貯蓄)と年金でたまに旅行をして、趣味を楽しみながら、いよいよ体が満足に動かなくなれば、子育て世代の息子や娘に世話をかけたくないから、マイホームを売却して代金を有料老人ホームの入居一時金にあててホームで余生を過ごすという選択ができたわけです。
それが年金75歳支給になると10年分で2600万円あまりの年金収入がなくなり、老後資金計画に大穴があいてしまう。ましてや50代で役職定年を迎えた人や再雇用で働いている60代の人にそれだけの貯蓄を殖やせと言っても無理難題です」
当然、悲惨な資金繰りに追われるケースが続出する。
「50代や60代の資金計画の見直しで考えられるのは、定年時に退職金や貯金で住宅ローンの残債を返済するのではなく、自宅を売却して少しでも現金を蓄え、家賃が安い公営住宅などに移ることです。
しかし、その世代は不動産価格も金利も高かった1990年代に35年ローンを組んだ人たちで、その後のデフレ期のリストラや残業カットで計画通りに返済が進んでいないケースが多い。
売却したら借金が残るから売るに売れず、仕方なく定年後も高額の住宅ローンを払い続け、身動きがとれないうちに退職金も底を突いて、年金支給前に生活保護を受けないと暮らしていけなくなる。そんな世帯がたくさん生まれることが容易に想像できます」(藤川氏)
年金が65歳で支給されれば起こらないはずの「老前破産」である。
※週刊ポスト2017年9月8日号