国際情報

韓国の若者たちはなぜ国を出て働こうとするのか

国を出て世界で働く韓国の若者たちは日本にも多くやってくる

 大韓民国の人口はおよそ5000万人で、日本の半数にも満たない。しかし、韓国人は世界中、どこに行っても必ず行き会う人たちでもある。とくに、歓楽街で韓国人と出会う確率は非常に高い。日本でもそうだ。なぜ、彼・彼女たちは国を出て世界で働こうとするのか。その理由をライターの森鷹久氏が追った。

 * * *
 東京・原宿のアパレル店が立ち並ぶ通りで出会ったのは、韓国随一のリゾート地、済州島出身の青年・ビョンホ(26)。髪は金髪で、サイドを刈り込み、いかにも今風といった格好は、筆者からすると「チャラチャラした今風の若い日本人男性」と見分けがつかないが、彼は、いま韓国で急増している、祖国に絶望した若者の一人だ。

「地元のチェジュ(済州島)には仕事がない。漁業や観光関連の仕事はあっても、フルタイムで働いて月に10万円を手にすることも厳しい。若者は釜山やソウルに出稼ぎに行くが、チェジュ出身者は田舎者だと馬鹿にされる」

 ビョンホは幼少の頃から、済州島出身者が韓国本土では嘲笑の対象になると、祖父母や親族から教えられてきた。中学卒業後、釜山の私立高校に進学したが、教わった通りに、済州島出身である身分を小馬鹿にされ、教師からも差別を受けたと話す。これは、大学進学の為に移り住んだソウルでも変わらず、就職活動の際にも”君は済州島出身か”とあざ笑われた。

「故郷のことを言われる度に”そうなんです、田舎者です”とおどけてみせたが、我慢の限界でした。結局就職活動はうまくいかず、ソウルに残ってアルバイトをする日々が続いた。今、韓国の若者の間では”正社員かチキン店か”などと言われています。サムスンや現代へ就職し、成功者になるか、そこら中にあるチキン店で低賃金を手にしながら細々と暮らすか、どちらかしか道がないと。極端な話ですが、韓国の若者たちがこうやって自らの置かれた境遇を自嘲気味に語るのです」

 韓国では数年前から、フライドチキンの店が激増中だ。チェーン店だけでなく、それほど多額の資金をかけずとも開業できるからと、定年退職したベビーブーマーの高齢者が新規開店させたのが重なり、今ではコンビニエンスストアよりも多い3万を軽く超える店舗数を数える。廃業と開業がめまぐるしく繰り返されるため雇用が安定しないが、常にどこかで店員を募集しているため、日本の東大卒に相当するソウル大卒でも就職率50%といわれる超就職氷河期にある多くの韓国の若者たちが、チキン店店員として働いている。

 チキン店でアルバイトをしつつ、深夜はガソリンスタンドでアルバイトを掛け持ちし、一昨年に来日。現在は語学学校で学びつつ、神奈川県内にある在日韓国人が経営する飲食店で働きながら生活するが、やはり生活の苦しさは変わらない。若いビョンホにとって、遊興費の獲得は何事にも代えがたい目標だ。

「今は仕入れをして、ネットで売ることをやっています。人気の商品は、すぐに価格が上がりますから」

 神奈川県内の韓国人コミュニティを通じて知り合った同胞から”転売”で稼ぐ手段を教わり、この転売だけで月に十数万円を得ているというビョンホ。不法行為ではないが”ずっと続けられる仕事はない”と自身で語っているところを見ると、決して喜んでやっているわけではない。筆者が出会った時、彼は原宿の某スポーツショップの前に早朝から並んでいた。

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン