「小泉首相が郵政民営化を進めたとき、官房副長官だった安倍さんは党内の反対を押し切ってまで民営化が必要なのかと疑問を持っていた。そこで思いきって小泉さんに“どうして民営化なんですか”と尋ねた。すると、凄味の利いた声で“お前は黙って従っていればいいんだッ”と一喝され、それ以上何も言えなくなったそうです」
総理にしてもらったという「恩」の陰には「讐」もある。十分な政治キャリアを積まないまま総理になった安倍氏は政権運営に苦しんだ。閣僚の失言とスキャンダルが相次いで参院選に大敗、第1次内閣はわずか1年で政権を投げ出さざるを得なかった。政治評論家の有馬晴海氏が語る。
「小泉さんは拉致問題で人気が出た安倍さんを自分の政権の広告塔に利用しましたが、首相の座を譲ったあとは事実上の楽隠居を決め込み、安倍さんが参院選に負けて苦境に立たされたときに何のフォローもしなかった」
「政治家は使い捨てされる覚悟を持たなければならない」という政治哲学を持つ小泉氏らしいとも言えるが、当時の安倍氏はそうした仕打ちを“突き放された”と感じていたのではないか。
それから10余年、「小泉」と「安倍」の立場は入れ替わった。今回の総選挙は安倍首相にとって小泉氏の息子である進次郎氏の人気を利用する絶好のチャンスとなった。
「イエスマンではない進次郎に全国行脚させることで安倍さんは逆風をプラスに変えた。これは手始めです。
憲法改正という超大型の政治課題に取り組むには高い支持率を維持しなければならない。かつて小泉元首相がやったように、今度は安倍さんが進次郎を手元に置いてその人気を自分の政権の安定にとことん利用しようとするはずです」(前出・有馬氏)
※週刊ポスト2017年11月10日号