片山:私は陸軍中将を務めた佐藤鋼次郎(注2)を思い出しました。彼は晩年の1923年に『明治神宮懺悔物語』という思想小説を書いている。ロシア革命後、社会主義と資本主義の最終戦争が起きるかという時代相のもと、西洋人たちが東京に集まって侃々諤々の議論を行うんです。そして日本人に論破された西洋人たちは明治神宮で懺悔する。祀られている明治天皇こそ、これからの世界の指導原理の体現者と認めるんですよ。
【注2/1862-1923。日清、日露戦争に出征。第一次大戦にも参加した。1916年に陸軍中将。大川周明ら、右翼思想家と幅広く交際した】
伊勢志摩サミットで、日本会議は伊勢神宮に訪問した外国の首脳が何かに目覚めるのを期待したのでしょうか。結果がメルケルのしかめっ面に終わりましたが。
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。本誌連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。
※SAPIO2018年3・4月号