本書の沢崎は得意の減らず口(!)で邪魔ばかりし、代わりに危機を凌ぐのが、求職者と企業をITで繋ぐ若き起業家だ。取引相手の望月の留守を待つ間、人質に取られた〈海津〉である。
「『長いお別れ』にもレノックスという相棒が出てくるでしょう。まあ彼の場合は大酒呑みで困った男だけど、外見も中身も〈ハンサム〉としか言い様のない好青年海津と、携帯すら持たない50代の沢崎が組むことで、思いもしない展開が生まれた。僕自身、最後の一行までどう転ぶかわからない小説が好みでもあるし、果たしてそれがハードボイルドたりうるか、自分でも書き終えてみるまでわからないところがあるんです」
◆一行一行手探りで書くしかない
以来、海津は沢崎を慕うようになるが、望月は依然消息不明。さらには新宿支店の金庫で見たあるはずのない大金の正体や、沢崎と因縁の深い暴力団〈清和会〉の影など、複雑に絡む糸は後半もなお、ほどける兆し一つ見せない。
また新宿署の天敵〈錦織〉らとの丁々発止は本作でも健在。「会話=ハードボイルドの神髄」をまさに地でゆく沢崎は、暴力を憎み、寡黙に見せて実は面倒見の良いところも魅力の一つだ。