「実はこのスノーの話について、ご自身の体験と重ねて感想をくださった方もいました。人に説明しても伝わらない幸せな空間を、私が夫と持てていることにいたく感動してくれたみたいで。そういう他愛もないことにキュンとしたり、お金のかからない豊かさを見出すにもスキルが必要で、それは小説や映画を通じて育てていける能力でもある。
うちでもトランプ氏を始めとした政治家の悪口は言うけれど、家庭内での会話と外での会話との分別くらいはあるし、何を恥と思うかという価値基準は個人の中にあればいい。人間は俗な感じが面白く、だから文学が生まれ、誰かを救ったりする。要は雑多な価値観が人生をカラフルにするということを私は常に思っています」
◆小説を書く時間は何を置いても大事
意見の違う人はいていい。むしろ無意識な異物排除や差別に走る人々を氏は嫌い、それでいて全否定もしない。
「要するに私は利己的なんです。『小学生にアルマーニの制服なんて、むしろ貧乏臭くない?』というような価値観を共有できる読者と、密かに優越感に浸っているんです。秘密結社みたいに(笑い)。“人が欲しがるもの”を欲しがる人もいるけど、私はこれが好きで、これだけが欲しいタイプ。そうやって社会的に許される範囲で利己的になれれば、幸せの種は幾らでも転がっていますから」
ダイエットの大敵であるバターが舌の上でとろける愉悦に悶絶したり、食後のガリガリ君は結局ソーダ味が一番と思ったり。ささやかな贅沢を楽しめる優雅な人は、バブルの頃、浴びるように飲んだドンペリを、いま改めて美味しいと思う。