ちなみに百夜とあぐりは美形で、正子は地味で冴えない35歳。一方、正子の実姉で公務員の〈衿子〉と看護師の実妹〈園子〉は〈私たちって、ブスだよね〉と認め合う仲だが、男女ともに面食いの正子は、美形の夫〈茂〉に片思いの女性ができて離婚した過去がある。

 6年前、宝くじで1等3億円を当てた正子は、茂から〈正子には壁がある〉と言われたことを思い出し、ネットで探した若手建築家に〈壁がない家〉の設計を依頼した。離婚後の今は衿子と園子が家賃3万円で同居中だが、正子は〈『血の繋がった家族』なんだから〉といわれる度に違和感を覚える。そんなある日、百夜とあぐりが食事に訪れ、そのまま居着いてしまうのだ。

 この時の三姉妹の反応が面白い。百夜が、かつて仕事先の男性と不倫関係にあったと語った際、正子はそれを特に質さずにいた。だが園子は〈なんで不倫した女を許すのさ〉〈不倫をしていた人とひとつ屋根の下で一緒に暮らすことは絶対にできない〉とまで言う。対して正子は〈園子ちゃんって、芸能人の不倫にも厳しいよねえ?〉〈たまたま恋に落ちずに済んでいる人が、恋に落ちて苦しんでいる人を滅多刺しにしてどうするのさ〉と、百夜ではなく実妹に家を出ていくよう進言するのだ。

「別にどっちが正しいとかではないんです。堅実でしっかり者の園子は社会のルールに則って生きるのが得意だけど、正子は自分がそうはできないから、人にも強く言えない性格というだけなんです。その合わない同士が衝突や対話を通じて一つになる小説もカタルシスがあって美しい。けれど私は、関係性というのは近づくだけでなく、離れていくのもまた美しいんじゃないかと思っていて、その離れていく美しさを書きたい」

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