◆小さなことから社会を変えたい

「特にお金に関する感覚は家族を作る上で凄く大事で、恩着せがましくない〈ちょうど良いありがとう〉を言うのは本当に難しいから、そこはお金のやりとりで済ませたい人も多いと思う。

 ところが世の中、『家族間でお金の話はするな』みたいな空気もあり、結婚した途端、片方が甘えっ放しでも社会的に許されたりする。だとすれば本当は人に奢るのが好きな正子が、それが気にならないセンスの人と偽姉妹を名乗る意義は十分あるし、大事にしたい関係に勝手な名前を付けて守っていくのも、うまく生きていく一つの方法だと思う」

 愛情は抱きつつ肉親と距離を置く正子の選択は、離れてこそ知る親の有難みにも似て、十分ありうる。むしろそれを認めさせない常識や家族幻想こそが本書の敵といえるが、「私は社会派作家になりたいんです」と山崎氏は妙にニヤニヤする。

「だって私が社会派なんて、冗談に聞こえるなあと思って(笑い)。普通、社会派は政治とか大きな問題を斬る印象がありますが、私はもっと小さなことから社会を変えたい。国と国の関係でも正しさを主張しあうより、距離を置けば戦争にはならないはず。それぞれ別の正義なんだねってあっさり引き下がる、社会派なんです」

 園子と別れ話をする間も昔から好きだった〈チョコミント〉味のアイスを頬張る妹に胸を熱くし、衿子が出ていく段になって〈うわあああん〉と泣き出す正子は、誰のことも恨んでなどいなかった。それでも偽姉妹との生活を選んだ彼女は、〈人間同士なら、みんな、姉妹になれる〉との理想の下、〈姉妹喫茶店〉を開業。共に老年を迎えた40年後までが、終章には描かれる。

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