でも、マツコはギャグっぽいとはいえ、『一度も幸福を感じたことない』とよく言います。視聴者は、マツコが幸福に見えるから憧れるのではない。むしろ幸福じゃないことをちゃんとさらけ出すところに共感している」
──マツコを受け入れる社会の側の変化も大きいのでしょうか?
「生き方の見えづらい時代になっているという要素も大きい。かつてのように良い大学、良い会社に入れば一生安泰だとか、適齢期に結婚すれば幸福になれるとかは思えなくなっている。『それが本当に幸せなの?』と疑問を持ち始めている。
日本も、多様性を認める社会に徐々に変化しつつある。数十年前なら会社員や専業主婦が多数派で、男性はずっと同じ会社に勤め、女性は家庭を守るという生き方が当たり前と思われていた。今もそういう部分は残っていますが、「多数派/少数派」「男性/女性」というようなカテゴリー分け自体が徐々に崩れていっている。
突き詰めれば、1人1人みんな違う。いろんな考え方や生き方があって当然だし、尊重しようという時代の流れがある。もちろん、LGBTに対する差別はまだ残っている。その中で、マツコ・デラックスは『自分はどう生きればいいのか』という苦悩をいろんな番組の端々でポロッと漏らしつつ、自分自身に向き合おうとしています。
今は承認欲求を満たそうとして、ツイッターやインスタグラムなどで自分を“盛って”見せようとする人も少なくない。常に人によく見てもらおう、よく見せようとしている。ただ、そういう生き方は疲れるもの。言い換えれば、いまの日本は疲労感の抜けない社会になっています。マツコは『そこからいち早く抜け出したほうがいいよ』と言ってくれている」