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2018.08.24 16:00  週刊ポスト

【著者に訊け】道尾秀介氏『スケルトン・キー』

◆今作が鍵となって僕の視界も開いた

 と、ここまでが第一章。物語の性格上、二章以降の展開に関して詳述は避けるが、実は既に事件は起きており、やがて明らかになる真相や憎らしいほどの伏線に、舌を巻くこと必至だ。

 ちなみに表題は、〈丸い軸に四角い歯がついた〉鍵のことで、英語では〈合い鍵〉も意味するとか。母の遺品である〈古い銅製のキー〉を常に持ち歩く錠也もその意味までは知らなかったが、終章ではグリム童話「金の鍵」を引きつつ、亡き母の切なる思いも明かされる。

「これはある少年が雪の中で鍵を見つけ、箱の蓋を開けるというだけのごく短い話ですが、寓話は思いもよらない効果を呼ぶことがある。巻頭に引いたマーク・トウェインの言葉や、ひかりの〈鏡像〉を用いた〈疑似無視〉の話も、この寓話を引用したことで全然違うものに見えてきました。

 物語が物語を深め、それが誰かの実人生をも変える。今回もこの小説自体が鍵となって視界がパッと開けたというか、僕自身、見ているようで何も見ていなかったことを痛感しました」

 例えば向かって右の口角が上がった顔と左の口角が上がった顔では、後者を笑顔と認識する人が多く、ダヴィンチのモナ・リザなども鏡像だと別の印象になる。この人の顔を認識する際に右脳=左の視野を専ら使い、右の視野が無視される脳の働きを〈シュードネグレクト〉、つまり疑似無視という。

「疑似無視は必ずしも悪いことじゃなく、一種の省エネ行動なんですよね。一々全部が見えてしまうと脳は大混乱に陥り、処理を最小限で収めるために左脳の働きをネグレクトする。それは単なる現象であって、良し悪しではないんです」

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