ライフ

【著者に訊け】道尾秀介氏『スケルトン・キー』

「元々脳科学の本は好きで。恐怖という防衛本能や共感能力の欠損以外に、発汗や心拍数などの客観的特徴もあるのが興味深い。特に心拍数は心理のメーターゲージとしてピッタリでした。主人公が恐怖感情を持つと、それが行動を抑制し、物語を縛る。だから『羊たちの沈黙』のレクターもあくまで三人称で書かれる敵役なんです。そこで僕は、あえてサイコパスの一人称を書こうと思いました」

 高校卒業後、都内のバイク便会社に入社した錠也は、配送先の出版社で間戸村と出会い、尾行係にスカウトされる。悪天候の中を顔色一つ変えずに疾走する彼に、間戸村は〈やばいなこいつ〉と直感したらしく、この日も大物俳優と朝ドラ女優の不倫現場を押さえた彼に報酬を奮発してくれた。が、錠也にとっては命知らずな走行で心拍数を上げ、〈まとも〉でいることが、バイトの最大の目的なのだ。

「究極の怖いもの知らずという特性を間戸村はうまく生かしてくれたともいえて、このままいけば錠也はその才能を開花させずに済んだかもしれないんですよね。絵や音楽の才能も、環境次第で開花したりしなかったりする。サイコパスは遺伝するのかとか、〈鉛〉の摂取との関係とか、科学的事実は正確に知っておく方がいい。それを隠すと、逆に差別や偏見が生まれます」

 それは幼馴染の〈うどん〉こと迫間順平と久々に会い、実はうどんの旧姓が〈田子〉で、父〈庸平〉はかつて飲食店に強盗に入り、女性従業員を撃った犯人だと告白された後のことだった。

 19年前、錠也の母が当時勤めていたパブで田子庸平という男に撃たれ、命がけで彼を産んだことは、園長から錠也も聞いていた。〈やっぱり俺のお父さんが撃ったのって〉と言い募るうどんに錠也は〈違うから〉とだけ答える。だが、自宅近くの公園でトイレに入った時だ。鏡の中の〈凍りついたような目〉に、彼は初めての恐怖を覚えるのである。

関連記事

トピックス

世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
浅香さんの自宅から姿を消した内縁の夫・世志凡太氏
《長女が追悼コメント》「父と過ごした日々を誇りに…」老衰で死去の世志凡太さん(享年91)、同居するスリランカ人が自宅で発見
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト