さらに保険・年金部門の「保険局」「年金局」があり、健康保険や厚生年金保険、国民年金などに関する企画立案、年金積立金の管理運用などを受け持っている。このように異質で多様な業務を一緒くたにしたのが橋本行革で生まれた厚労省であり、これでは一つの役所として効率的に機能するはずがないだろう。したがって厚労省は現在の股の広がった所管業務を機能別に選択・集中した上で、再び厚生省と労働省に二分すべきである。
そして労働省は、ある意味、国家にとって最も重要な役所となる。なぜなら、これからの日本にはどのようなスキルを持った労働者が必要なのか、どうすれば労働者の生産性が上がるのか、ということを徹底的に考え、21世紀の企業ニーズを満たす人材を養成していかねばならないからである。
たとえばドイツでは、職業訓練専門学校の多くが「デュアルシステム」(*注)になっており、会社に入る時は350くらいの様々な職種の中から自分が専門にする一つの職種を選んで、さらに腕を磨いていく。そのシステムを国・州・企業・労働組合が合わさった公的機関「BiBB(職業教育訓練研究機構)」がきめ細かく運営し、将来の雇用に耐えうる人材を懸命に育成しているのだ。
【*注:デュアルシステム/1週間のうち2日間は学校で理論を学び、3日間は会社に行って実習をするというドイツの教育制度】
日本の厚労省も、いちおう人材開発や職業訓練などの看板を掲げているが、ドイツに比べると天と地ほどの差がある。事実上、人材育成の役割の大半は文部科学省が担うかたちになっているものの、同省は、世界のどこに行っても活躍できるスキルを持った社会人を生み出すとか、AI(人工知能)やロボットに置き換えられないように労働者を再教育するといったことは実質的に何もやっていないのが実情である。
※週刊ポスト2018年9月14日号