中川:おかしなことを言う人はもしかしたら病気かもしれない。病気の人にまで自己責任を求めるのはキツイと思います。
橘:完全な人権をもつということは、完全な責任能力をもつということですから、誰もが平等だとすると、「何でこいつを叩いちゃいけないんだ? 自己責任でおかしなことをやってるんだろ」という理屈になる。それに対して、「このひとはちょっとふつうとちがうんだ」と反論すると、「それって差別だろう」となって収拾がつかなくなる。その結果メディアでは、暗黙の了解として「面倒なひとには触らないでおこう」という対応しかできなくなった。でもネットはそういうルールにしばられないから、かつて出版社が「鬼畜本」でやっていたことがぜんぶネットに流れ込んだんじゃないでしょうか。
中川:そこのタブー破りが、リベラルの界隈で発生しています。その表れが、「在日ネトウヨ」と「ホモウヨ」という言葉です。在日が差別されているという記事には、差別の当事者である在日のコメントが掲載されたりします。すると、こうした記事を読んだ、記事に取り上げられない在日が、「あの人たちが在日の代表だと思われると私たちの迷惑になる」とツイッターで意見表明をします。「彼らは攻撃的で日本の悪口ばっかり言っている。私は日本で楽しく生きている」と。そうすると差別される当事者として声をあげる在日の支持者たちから、「こいつは在日を騙っている」とか、「自称在日のネトウヨによりなりすまし」などと批判される。さらには、ストックホルム症候群的に日本人の側に立つことで自らを守ろうとしている、と批判を加えたりもします。
「ホモウヨ」については、杉田水脈氏の「LGBTは生産性がない」の件で、「T(トランスジェンダー)」を除くLGBの人たちが、杉田氏の意見に賛同したり、「活動家が騒ぎを大きくしている」などと言い出すんですね。もしもその人が「G」だった場合は「ホモウヨ」と、差別用語を交えて批判をされる。
「杉田水脈を攻撃しないとは、こいつはLGBTの風上にも置けない」みたいな話にされてしまう。LGBTの人間は保守的であってはいけない、という妙な不文律が持ちだされます。官邸前で杉田氏に対するデモが行われたのですが、レインボーフラッグに、「FUCK YOU VERY MUCH」とか書いて旗を汚しもする。「弱者はかくあるべし」というルール的なものが勝手に生まれ、当事者からの異論を許さない状況があり、もはやネット上でまともな議論なんかできないのではないでしょうか。(続く)
◆橘玲(たちばな・あきら):作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけない 残酷すぎる真実』『(日本人)』『80’s』など著書多数。
◆中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):ネットニュース編集者。1973年生まれ。『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』『縁の切り方 絆と孤独を考える』など著書多数。