15階には法務部や人事部などが集まっている。人事部長らは榊原氏が社員にまでメールを送りつけていることをとがめ、「営業秘密の漏洩ではないか」と詰め寄った。
「それはおかしいですよね。だって、重要なリスクについて社内で情報を共有しようとしているだけなんですから」と反論する榊原氏に対し、法務部長がメールサーバーへのアクセスを禁じる警告書を突きつけた。
「私は頭に血が上ってしまい、『メールを停止するんですよ』と大声を上げてしまいました。オリンパスのシステムでは、メールサーバーへのアクセスを禁じられれば、出退勤の管理や出張費の精算、全社向けの掲示板の閲覧などもできなくなってしまうのです」
実際にそれ以来メールは停止され、社員として“市民権”を剥奪されたに等しい。その後、法務部長とは、「会話も交わさない絶縁状態になっており、やりとりの一切が証拠として残るように書面を介するようになりました」(榊原氏)という。
榊原氏は色白で痩身の30歳だ。理知的な顔立ちだが、笑顔は優しい。しかし年末年始を挟んで、大人しげな容貌からは想像がつかないほど行動を飛躍させた。2018年の年明け早々、オリンパスと法務部長、人事部長を相手取って、パワハラと公益通報者保護法違反で東京地裁に訴えを起こしたのだ。さらに追加でバックオフィス部門の担当役員も訴えている。
これに対してオリンパスは4月11日、榊原氏に自宅謹慎の懲戒処分を下した。裁判は今も東京地裁で係争中だ。
この事態に際して、社外取締役・監査役を含むオリンパス経営陣はどう対応したのだろうか。特に社外取締役は企業統治の要であり、その究極的な役割は「いざという時に社長に引導を渡すこと」とされる。通知書を受け取って問題を把握した以上、社外取締役として注意義務が発生する。