もし、それがスマホ画面だったら? 涙の痕跡は残りません。紙に書いた手紙、残された質感、滲み具合から心情を読み解いていく。リアルにこだわった筋書き、生きることの不条理に迫る純文学をふと連想します。

 荒唐無稽な設定なのに、じわじわ現実に滲み出してくるような迫力。主軸の教師役・菅田将暉さんの演技力に負うところは大きいでしょう。抑えに抑えたセリフ、冷静沈着だからこそ不気味。いったんアクションシーンになるとすごい躍動感。身体はキレていて型があって腰は据わっている。主軸の演技がしっかりしているからこそ成り立つ、摩訶不思議な世界です。

 物語は全10回で「10日間の物語を描く」という構成です。映画『テルマエ・ロマエ』などを手がけた武藤将吾氏のオリジナル脚本、小室直子氏の演出が光る。いったい次の日は何が暴かれるのか。目が離せません。

●『モンローが死んだ日』

 先述したドラマが「動」なら、『モンローが死んだ日』(日曜夜10時NHK BS)は徹底した「静」です。アクションも爆発も、叫びもいじめも無いのだから。

 あるのはちょっと濁ったようなコダックカラー調の色彩世界。現実にはありえないような美しい映像が、淡々と映し出されていく。ゆったりとしたテンポのセリフ、静かな時が流れている。

 主人公は猫と暮らす50代の幸村鏡子(鈴木京香)。やや乱れた髪に顔色の良くない肌。うつむき加減の視線。人気女優がまっすぐに老いをしょいこんでいる。孤独を体現している。その迫力に、思わず目を奪われてしまう。

「老い」と「淋しさ」に形を与えるとしたらまさしくこうなるだろう、と感じさせるのです。その意味で、この作品もやはりフィクションの枠組みの中で本質的なテーマをえぐろうとしている、と言えるでしょう。

 今や「ドラマ」はスリリングな実験場となっています。私たちが向き合うべき課題であるいじめや老い、孤独といった「社会的なテーマ」を、架空の物語の枠組みに思い切りぶち込んだ時、いったいどんな化学変化が生じるのか? 何が立ち上がってくるのか?

「ドラマでしかできないこと」がある。それを今年は存分に味わってみたいものです。

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