ただし、この急減速は米中貿易戦争の影響だけではなく、中国経済の構造的な変化も大きな要因だと思う。それはすなわち、中国の「低欲望社会」化である。
低欲望社会とは、人口減少や超高齢化、リスクを背負いたがらない“欲なき若者たち”の増加などによって経済がシュリンク(縮小)する社会のことで、私の造語である。もとは日本経済の現状を分析・解説したキーワードだが、実は私の著書『低欲望社会』(小学館新書)の中国簡体字版が現地で話題になっている。中国在住の日本人の友人によれば、いま中国も急速に日本と同様の低欲望社会になっているからだという。
その原因は、まず人口の頭打ちだ。中国政府は1978年に始めた「一人っ子政策」を2016年に廃止し、夫婦1組につき2人まで子供を持てるようにした。ところが、出生数は2017年が前年比63万人減、2018年が同200万人減となった。その結果、中国の2018年末の総人口は13億9538万人で、年間の増加は530万人にとどまった。死亡数と出生数の前年比増減幅が2018年のペースで推移した場合、早ければ2021年に中国は「人口減社会」に突入する計算になる、とも報じられている。
もう一つは、若者の“草食化”だ。「一人っ子政策」の下で生まれた子供たちの先頭は40歳になっているわけだが、前述の友人によれば、彼らは「シックスポケッツ」(両親と双方の祖父母の合計六つの財布)から金を注がれ、甘やかされて育ってきたため、競争を好まず、欲望も低下している。改革開放政策が始まって以来40年間の高度経済成長下で欲望をみなぎらせて激しく競争してきた従来の中国人とは全く異質な中国人になった、というのである。