セロトニンは、快楽・喜びに関係するドーパミン、覚醒や意欲、記憶に関係するノルアドレナリンなどをコントロールして、精神を安定させる働きがある。別名“幸せホルモン”などとも呼ばれている。
「セロトニンは、高齢になるほど減る傾向にあります。また高齢者は、子供の独立、配偶者や親しい人との死別など、インパクトの強いストレスや悲しみと向き合う機会も多い。病気にまで至るか、どんな症状が際立つかは個人差もありますが、基本的に高齢者はうつになりやすいのです」
一方、認知症も高齢になるほど増えていく病気だが、脳の中に原因物質がたまって脳細胞が萎縮、死滅するなど、不可逆的な変化によるもの。残念ながら今のところ完治に至る治療法はない。
「うつは認知症と違って脳細胞自体が壊れるわけではないので、減ったセロトニンを増やす薬物療法がよく効きます。つまりきちんと治療をすればよくなるのです」
しかし前述のような理由から気づかず、受診に至らず放置されることも多いという。
「高齢者の場合、自然治癒はまず望めません。放置すれば悪化の一途です。脳の神経伝達がうまくいかないので、認知機能も低下します。多くの調査から、うつが認知症のリスクを高めることも明らかになっています」
さらに厄介なのは、悪循環に陥りやすいことだ。
「うつになると基本的に悲観的になりますが、悲観するとよけいにセロトニンの分泌が悪くなるのです。また不眠になったり、食欲が落ちて栄養不足になったりすると、セロトニンが作られにくくなる。こうして悪化すると、抜け出すのが難しくなります。
実際にうつの人の話を聞いたところでは、高熱にうなされる時のようだと言います。気力も食欲もなく、あちこち不調でだるい。夜中に目が覚めていつも不安。それがエンドレスで続く。『生きているのが嫌になる』と。最悪の場合は、自殺にも至ります。本当につらいだろうと思う。うつこそ、早期発見、早期治療が大切なのです」
ちなみにうつは女性の方がなりやすいが、自殺者は男性の方が多い。今の高齢者は「迷惑をかけている」という思い込みからうつになるケースも多く、独居より、家族と同居する高齢者の方が自殺率が高いという。
※女性セブン2019年6月13日号