問題は、そうした事情を他の国もわかっているため、日朝首脳会談が実現すれば、「国連が経済制裁を行なっている中で“日本はカネを払った”と見られてしまうことだ」という。
日本は現在、米国やカナダ、オーストラリアなどと協力し、中国船籍や韓国船籍などの船による「瀬取り」と呼ばれる北朝鮮との洋上取引を厳しく監視している。その日本がカネを払ったのではないかと国際社会から疑われること自体、「経済制裁の足並みを乱し、国際社会で非難されかねない」(末松氏)と危惧するのだ。
仮に、安倍首相の7月訪朝が実現すれば、拉致問題が日朝首脳会談の最大のテーマになるのは間違いない。元駐韓大使で外交経済評論家の武藤正敏氏が懸念するのは、北朝鮮側が意表を突く提案をしてきた場合だという。
「私が注目しているのは、もし、金正恩が『日本が経済制裁解除や経済協力に応じるのであれば、拉致被害者は帰国させてもいいが、核廃棄は別の問題だ』と言った場合、安倍首相がどんな対応をとるつもりなのかです。
日本政府の立場は、核開発とミサイル、拉致の問題を包括的に解決し、その段階で国交正常化や経済協力を行なうというスタンスですから、外交的建前としては非核化が先と言い続けるしかないでしょう。しかし、それでは拉致問題の解決も遠のいてしまう」
「私の内閣で拉致被害者を全員帰国させる」と国民に約束した安倍首相にとっては、そんな選択を突きつけられることが最も厳しい“踏み絵”になる。
その時まさに、「外交の安倍」と「拉致の安倍」の真贋が問われてくる。
※週刊ポスト2019年6月14日号