出会った頃、「監督だよ」と聞かされた沙知代さんは、「工事現場の監督」と思ったそう

◆死んだ日の朝、サッチーは「手を握って」と言った

「不思議なことは、その日の朝方、ふと目が覚めたらサッチーが『ちょっと手を握って』って言ったんだよ。『どうしたんだ?』って聞いたよ、そんなこと言われたことがなかったから。変だなとは思ったけど、言う通りにした。あの時、死ぬというのを予見していたのかね。

 それで今は、ひとり…ひとりっきりですよ。

 サッチーさんのいない人生を考えたこともないし、考えようもなかった。だから今はもう、ただひたすらお迎えを待っているだけ。苦しまずに逝きたい。それだけですよ」

 最後に、定年後の旦那さんがうっとうしいという、世の妻たちに向けてアドバイスを求めると、「そんなものないよ」と言いつつ、「最後の最後まで愛してあげるのがいちばん。いずれにしても人間の最期はあっけないよ。けんかできるのも生きている間だけだよ。大事にしなさい」と言って、かすかに微笑んだ。

「サッチーさん」「サッチー」「沙知代」。野村さんは話題によっていくつかの呼称を使い分けていたが、ふたりだけの時、沙知代さんは「あんた」「あなた」と呼び、野村さんは「おい」だったとか。野村さんの左手の薬指には、沙知代さんのアイディアで作った、それぞれの実家の家紋を重ねた結婚指輪が光っていた。

【プロフィール】
のむらかつや/1935年6月29日、京都府生まれ。南海ホークスに入団。以来、現役生活27年の後、野球解説者として活躍。4球団で監督を務め、ヤクルトスワローズを3度、日本一に導くなど、“名将”の名をほしいままにした。選手や生活についての愛あるボヤキ節も話題になった。

(取材・文/野原広子…女性セブンの名物記者。『オバ記者』の愛称で、興味ある対象への体当たり取材を続けている)

※女性セブン2019年6月20日号

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