◆教育虐待に走る親のタイプ
そして、子どもへの過度な期待がエスカレートし、暴力をふるうなど「教育虐待」にまで至る父親の行動は、わが子に対する期待と愛情のアンバランスから起こると考えられます。
子供の成績から過度な期待を抱き、わが子を思う気持ちが溺愛に代わり、その先に、子どもを自由にコントロールできると勝手に考えてしまうのです。受験を通してわが子を、人格を持つ一人の人間として扱えない父親の姿は、自分の描く理想像を子どもに投影しているだけに過ぎません。
その背景には、父親自身の人生観や、今おかれている社会的立場、過度な人的ストレス、自分の思い描く社会的地位とのギャップなど、複雑な要因が入り交じり、父親の“心の迷走”を感じ取ることができます。すでに、自分自身を冷静に、そして客観的に見られない状態になっており、子どもの受験に関しても自分より身分的・地位的に上の人か、権威ある教育や受験の専門家の意見以外は聞く耳を持たないのが特徴です。
こうした父親に共通する教育方針として、次のような内容が浮かび上がってきました。もちろん、受験だけに固執せず、良い面もありますが、過干渉といわれても仕方のない面は否めません。
・幼いころから習い事や塾、スイミングスクールなどに通わせる
・約束を守れない場合、体罰を与える。食事をさせない、外に出す等。
・口答えは許さない。
・見るテレビの制限をする(ニュース番組・健全なアニメなど)
・友人との連絡を禁止する。遊びに行くことも、家に招くことも禁止する
・毎日の学習の確認をする(テスト結果の報告、学習内容の説明など)
・博物館、展覧会などに連れていく
・子供とは率先して関わる。遊びも付き合う
・成果が上がらない場合、すぐに塾や先生を変える
◆子どもと父親「ゴールの違い」
当然のことですが、中学受験は子ども自身の目標であり、入試までの過程には何度も繰り返されるテストがあり、その都度、子どもの頑張りや評価すべき通過点があります。
しかし、父親の考えるゴールには「合格」の二文字しかなく、それ以外はすべて否定的な捉え方をします。模擬試験の結果などはその最たるものです。結果が悪ければ、今まで以上に指導に熱が入ります。そして、子どもの学習時間も深夜まで及び、寝不足で学校の授業にまで支障が出るほどです。
そうした親の厳しすぎる指導で取り組んだ受験は、子ども自身のゴールではなく、合否の結果がすべてという父親のためのゴールともいえます。認知心理学の用語では、学習の結果として表れる成績や、親や先生など周囲からの称賛を目標としたゴールを「パフォーマンスゴール」と呼びます。
本来は、子ども自身が日ごろの努力や受験勉強の成果の積み重ねから学べるゴールでなければなりません。これを「ラーニングゴール」と言います。結局、親の顔色をうかがいながら過度な期待を背負って受験に挑む子どもは、指導のつらさに耐えきれず、自分自身を追い詰めてしまうこともありますし、仮に不合格という結果を突きつけられれば、小さな心にさまざまな重荷となってのしかかります。