新幹線の駅らしい立派な駅舎、待合室、駅前広場、ロータリー、駐車場、案内所、各方面にアクセスするバス路線網。Wi-Fi、駅レンタカー、みどりの窓口、売店、飲食店、外国人観光客のための多言語化etc。これらは、ただつくればいいわけではない。清掃といった維持管理をしていく手間やコスト、人員も必要になる。それまでの無人駅とはわけが違うのだ。
また、自治体側も新幹線が停車するのだからといった理由で、コミュニティセンターや分庁舎、図書館といった公共施設を駅周辺に新しくつくろうとする。
利用者数だけで新幹線の開業効果を測ることは難しいが、新幹線の停車駅だから多額の税金が投入されて整備される。そこまで心血を注いでも、利用者数は思うように伸びない。東海道新幹線が華々しく開業した頃とは異なり、昨今の新幹線は必ずしも地域振興の起爆剤にはならない。
新幹線信仰が薄れつつある中、2031年に北海道新幹線全線開業で駅の新設が予定されている八雲町の新駅計画が話題を呼んでいる。
酪農の町として知られる八雲町は、人口が約1万6000人。町の中心になっている八雲駅は特急列車が停車する。八雲駅は札幌や函館といった近隣の大都市と八雲町とを結ぶ重要な交通拠点でもあるが、駅周辺は市街地が広がっており、飲食店や生活品を販売する商店などが並んでいる。八雲駅は生活の軸としても機能している。
一方、新設される北海道新幹線の新八雲駅は、八雲駅から西に約3キロメートルも離れている。
「自動車を使えば新八雲駅まではそれほど時間はかからず、便利な場所にあると言えます。しかし、市街地のはずれにあるので、町の人が頻繁に利用するとは思えません」と話すのは、八雲町新幹線推進室の担当者だ。
新幹線駅が開設される予定地の一帯は、農業利用以外が禁止されている。そのため、新幹線駅が開業するにあたって、周辺を開発することはできない。開発するには、都市計画を変更しなければならない。しかし、八雲町はそうした動きを見せなかった。
「新八雲駅の周辺を開発することになったら、町のにぎわいを移すことになります。それは非現実的ですし、新幹線のために町民の暮らしを壊すことになりかねません。それでは、新幹線の駅ができる意味がありません。そうしたことを踏まえ、町は新幹線駅周辺を積極的に開発しません。あくまでも、最小限の施設整備にとどめる予定にしています」(同)
八雲町が発表している駅計画図を見ると、ホームからは一面に広がる牧場が見渡せるように設計されている。牛や馬が草を食む風景が、新幹線駅前から見ることができる。