田岡満は父の後は継がず映画プロデューサーになり、父をモデルにした『山口組三代目』(高倉健主演)などの映画をヒットさせた。
しかし、彼の周囲にはやはり暴力の匂いがあったという。
「いつだったか、北新地のクラブの女の子と焼き肉食べてたら、チンピラみたいな奴が“おい前田五郎やないか”って近づいてきて、“女と何食うてるんや”といって、僕らの席の肉を摘まんで口に入れたりしよった。そこにたまたまそこを通りかかったのが満ちゃんのボディガードで、僕が困った顔したらそのチンピラに“ちょっとこっちおいで”って連れて行って、しばらくしたらそのチンピラが“すみませんでした、許してください”と土下座しに来たんです。
こんな商売やってるとよう絡まれるんですが、電話するだけでなんとかなりますから、満ちゃんは僕の守護神やと思ってました」
前田は、自分だけが特別ではなく、当時は皆がそうだったのだと強調する。
「当時はほとんどの芸人がヤクザから仕事を受けていましたよ。漫才ブームの時、売れっ子の芸人らは、仕事が終わると外で待っていたヤクザの車に乗り込んで打ち上げに行くコンビもいたんやから。それほどズブズブの関係やったけど、ヤクザが僕らに迷惑をかけることは一切なかった。昔はいまの半グレのように、芸人を利用しようとする奴はおりませんから」
前田自身、今は時代が変わったことは認めている。その上で、かつてを知る吉本幹部らにこう言うのだ。
「ヤクザとの関係はそんなに簡単に切れへんことは、幹部はみんな知っているはず。そやから今回の騒動が、トカゲのしっぽ切りで終わらないようにするのが務めやないか?」
※週刊ポスト2019年8月16・23日号