たしかに、鳴戸が敗れた対戦相手の仙台育英は最先端の「継投策」でこの夏、小さな旋風を巻き起こした。36歳の須江航監督は、長く系列の秀光中等教育学校の軟式野球部で監督を務め、2018年1月に仙台育英の指揮官に就任。独学でアナライズを学び、データと傾向の分析を活かした戦術眼で、須江監督は母校でもある仙台育英を2年連続で夏の甲子園に導いた。
同校では140キロを超えるふたりの3年生右腕に加え、菊池雄星タイプの左腕・笹倉世凪(せな)と前田健太タイプの伊藤樹というふたりのスーパー1年生投手も躍動した。とりわけ秀光中時代の愛弟子である1年生に対し、須江監督は週に200球という球数制限を設けて管理し、肩やヒジへの負担を考慮しながら、成長を促しつつ試合に起用してきた。
20対1と大勝した初戦の飯山(長野)戦では笹倉を先発させ、4投手で9回を「3・3・2・1」と分担。鳴門戦では3年生ふたりで6回までしのぎ、笹倉を試合終盤の7回から起用。そのまま試合を終わらせた。
「理想は9イニングを4人の投手で分担しながら、ひとり50球から60球で回していく。捕まったら継投タイミングが早くなることもありますし、(鳴門戦では)7回から登板した笹倉のボールの対応に相手打者が苦しんでいたので、2イニングの予定をもう1イニング投げさせ、伊藤の出番はありませんでした」
笹倉や伊藤が先発する時は、打者1巡を目安に、2回もしくは3回で降板させる。その後、信頼を置く3年生投手がロングリリーフし、試合を進行させていく。仙台育英の投手起用は、メジャーリーグや北海道日本ハムが導入する、リリーフ投手を先発させ、3回あたりからローテーション投手にロングリリーフさせる「オープナー」のような投手起用に近い。
準々決勝で星稜に1対17と大敗し、甲子園を去ったが、2投手以外にも1、2年生が多数ベンチ入りしており、新チームこそ、深紅の大優勝旗の白河の関越えが期待されよう。
ただ、「先発完投エース」がいなくなる変革によって、私立が有利になるかというと、必ずしもそうではなさそうだ。この夏の全国の代表校を見渡して、真っ先に目に付くのは春1回、夏6回の優勝実績のある伝統校・広島商や、熊本工業をはじめとする公立校の復活だった。
2017年夏の甲子園は49代表校のうちで公立は8校。100回目の記念大会で、56代表校だった2018年夏も同じ8校だった。少子化や野球人口の減少によって、私立に有望選手が集まる傾向が年々、強まっている中で、2019年は公立校が14校にまで増えるという揺り戻しが起きたのだ。
全国から選手を集めることも可能な強豪私立に対して、名門公立校などは全国的なスカウト活動を展開することこそ難しいものの、地元の公立志向の選手が集まり、多くの選手を抱える部も少なくない。たとえば、広島商業は135人、熊本工業は110人と、全国有数の部員数を誇っていた。
公立であっても、選手の頭数がそろえられれば、戦い方次第で甲子園に出場することも可能だということを、広島商業と熊本工業の復活は示唆していた。