「実は私のもとに、ある徴用工裁判の原告が相談に来ました。その方は徴用工遺族なのですが、判決後に日本企業の資産差し押さえ手続きまで行なったのは弁護士が勝手に始めたものだと言っていました。差し押さえ手続きや、企業に押しかけるなどの一連の圧力行動は弁護士らの考えで行なわれ、一部の遺族には相談すらなかったそうです。弁護士らの行為が日韓関係を悪化させる原因になったことで、一部の遺族はとても困惑しているようなのです」
日韓の歴史問題は、その多くの場面で市民団体や弁護士が実被害者を無視し、反日運動を優先させてきたことで問題が複雑化していったという歴史がある。実は徴用工裁判においても同じ現象が起きていた、というのだ。
光復節をピークとするように韓国内で猛威を振るった反日運動。しかし同時にその歪すぎる構造や矛盾も、取材や証言により浮き彫りになってきた。前成均館大学校名誉教授(経済学)の李大根(イ・テグン)氏もこう嘆く。
「文在寅政権は歴史問題や経済摩擦で反日ムードを煽り、国民を結集させてきました。でも韓国内には、実は中道の考えを持つ人も少なくない。本音は違っていても、反日や不買運動に流されてしまう人がとても多いのです。それは近代的な市民階級にまだ韓国国民が成長できていないという証の一つなのだと思います」
信頼ある日韓関係を再び築けるようになる日は、果たしていつになるのか──。
●取材・文/赤石晋一郎(あかいし・しんいちろう)=『FRIDAY』『週刊文春』記者を経て今年1月よりフリーに。南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。
※週刊ポスト2019年8月30日号