「ワシの頭には『交代』の文字はなかった。監督がマウンドに来ると“何しに来たんじゃ!”と追い返した。今の選手は交代を告げられると喜んで帰っていく。勝ち星より防御率を気にする選手がいるが、何のために投げているのかと思う。防御率が悪くても勝てばいい。どんなに防御率がよくても負けたら意味がない。ピッチャーは勝ち星を挙げるために投げているということがわかっていない。同点で降板するピッチャーの気持ちが分からんよ」
この話を聞いたのは昨年のオフだったが、そんな金田氏のお眼鏡にかなうピッチャーを聞くと、こう続けるのだった。
「うーん、最近は記録どころか、記憶にも残らない選手ばかりだからな。諸悪の根源は、先発、中継ぎ、抑えと分業制が確立されたことに尽きる。なぜワシが400勝できたかというと、後ろのピッチャーなんて信用しなかったからじゃよ。
それでもあえて今の球界で最もワシに近い存在を挙げるなら、分業制の中で先発完投を増やしている巨人の菅野智之かな(2018年シーズンは15勝8敗、10完投で沢村賞)。最後まで誰にもマウンドを譲らんという気概を感じるのよ。技術面でいえば、左バッターの外角からストライクゾーンに入るスライダー。あれに手を出せるバッターはそうそうおらん。狙ったところに投げる能力は、ワシより上だと思うことすらあるよ。
ただ、菅野はコントロールを駆使して抑えるが、ワシの場合はど真ん中に投げたって打たれなかった。水面に投げた石がぽんぽん跳ねるようなイメージで、空気を滑って伸びたからな。ど真ん中に投げたストレートが高めにググーッとホップして、5センチ外れたボールだといわれて、審判と大喧嘩になって退場をくらったこともあった」
◆リリーフ投手と「名球会」