芸能

忠臣蔵の異色作、岡村隆史の演技に時代劇研究家が驚いたワケ

岡村隆史も登場する映画『決算!忠臣蔵』

 年末に近づいてくると思い出されるのが『忠臣蔵』。その異色作、映画『決算!忠臣蔵』が話題を集めている。この作品で、岡村隆史の演技に注目したのは時代劇研究家のペリー荻野さん。ペリーさんが映画の見所、そして岡村の演技について綴る。

 * * *
『忠臣蔵』といえば、これまで300本以上も映画・ドラマになってきた時代劇の定番中の定番。私も名作から異色作まで数多く見てきたが、だが、11月22日公開の『決算!忠臣蔵』には、たまげることが多かった。

 物語の発端は、元禄14年3月14日、赤穂藩主・浅野内匠頭(阿部サダヲ)がワイロ大好きな吉良上野介に殿中松の廊下で切りつける事件を起こし、即日切腹となったこと。その1年9か月後の元禄15年12月14日、元家老の大石内蔵助(堤真一)ら赤穂浪士四十七人が吉良邸に討ち入り、仇討を果たす。実際の「赤穂事件」を基にした話だ。

『決算!忠臣蔵』で一番たまげたのは、この仇討ストーリーを「お金」で考えたコメディにしたこと。これまで多くの日本人が泣いた忠義の物語がコメディ?と思ったが、確かに討ち入りには超お金がかかる。赤穂藩は取り潰されて、藩士は全員失業しているのである。

 プロジェクト遂行にお金関連の泣き笑いはつきもの。江戸までの交通費も高額な上、みんなで秘密基地も買っちゃって(のちに炎上)、討ち入り当日に使う「たいまつ」だって10本で10万円? その結果、内蔵助が「3月14日吉良を討つ!!」と宣言すると、長年、藩の役方(経営)を担当していた貝賀弥左衛門(小松利昌)が「3月まで持ちまへんで」と眉毛と目尻を下げた情けない顔(小松の眉毛&目尻演技は素晴らしい)で言い出し、カックンとなった内蔵助は「なんでやねん!!」と倒れそうになる。

 そうそう、第二のたまげポイントは、登場人物のほとんどが関西弁でしゃべること。赤穂の侍たちが江戸の言葉を話しているほうが無理があるというものだ。というわけで、大阪出身の堤、小松はじめ、「これは戦や!」と怖い顔をする木村祐一も「小さなことからコツコツと」の西川きよしもイキイキとしてみえる。

 中でも役方でもっともお金に厳しい矢頭長助の岡村隆史は、「銭勘定できひん侍は何をさしてもでくのぼう」と鋭い。ここで重要なのは、コメディでありながら、岡村隆史はほとんど笑いの仕掛けを担当していないこと。堤真一は「テレビで見ている岡村君とは全然違う」と語っていた。もぞもぞと控えめに話す矢頭長助は、『あさイチ』で「NHKではチコちゃんにしか心を開いていない」と博多大吉に指摘された人見知り岡村の素顔に近いのだろう。

 そして、たまげポイントの三番目は、登場人物がこれまでの『忠臣蔵』とイメージが違うこと。一般に「理想の上司」ともいわれる堤内蔵助は無類の女好きで愛人が三人もいるし、悲劇の内匠頭未亡人瑤泉院(石原さとみ)は「わらわはの金」とお金を気にして怒ってる。かつては高橋英樹や阿部寛、木村拓哉なども演じた剣豪堀部安兵衛(荒川良々)はやたら鼻息荒く暴走気味。

 これだけイメージが違っても、『忠臣蔵』をひっくり返された気がしないのは、やっぱりお金というテーマが、誰にも身に染みるからだ。ラストも、過去の『忠臣蔵』では考えられない場面となっている。金勘定はすべて史実(原作は東京大学史料編纂所の山本博文教授の著作)。自ら電卓をたたいて計算しつつ脚本を書いた中村義洋監督のセンスに拍手を贈りたい。

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン