芸能

SPドラマで芥川を演じる松田龍平 「獣にならない」男の魅力

番組公式HPより

 ストーリーとキャスティングのマッチングは、作品の魅力を考える上でやはり極めて重要だ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 ドラマ好きに朗報です。暮れも押し迫った12月30日、至福の時間が待っていそう。スペシャルドラマ『STRANGER(ストレンジャー) 上海の芥川龍之介』(NHK午後9時)は日本一有名な小説家・芥川龍之介の物語。教科書に載っている『蜘蛛の糸』を知らない人はいないけれど、芥川が上海へ行ったことはさほど浸透していない事実かもしれません。

 今から約100年前、新聞社の特派員として動乱の中国に渡った芥川は、いったい何を目撃し何を感じたのか。当時の上海の風にどんな匂いを嗅いだのか。そして6年後、なぜ自殺してしまったのか……。

 ドラマでは中国ロケを駆使してそのあたり丁寧に描くようです。しかも最近、所在不明だった芥川の紀行文「上海游記」の冒頭の直筆原稿が発見されたとか。このニュースもまた、芥川の上海滞在のミステリアスさを深めてくれています。

 であるがゆえ、芥川の役をいったい誰が演じるのかは大切な問題。主演を松田龍平がやると聞いた時、思わず膝を叩きました。内省的なジャーナリストの役にドンピシャ、ハマリ役ではないでしょうか。

 そう、松田さんと言えば先日までドラマ『歪んだ波紋』(NHK BS)にて、やはり新聞記者の役を演じていました。それが実にいい味を出していたのです。もの静かで抑制的。表情を崩さない。対象との間に距離感がある。静かな横顔に知性が宿る。人としての深みや哀しみがにじみ出ていた……。

 今どきは既存の紙の新聞も部数減で危機に直面し、かつての栄光も失墜しつつあり、一方ではネットニュースが台頭しています。新聞記者も「ブンヤ」のプライドを持って肩で風を切る自信満々のエリート「ではない」。フェイクニュースに翻弄される記者を演じた松田さんは、新聞の置かれている時代の変遷も含めナイーブなテーマを活き活きと描き出しました。

 このドラマを制作統括した佐野元彦プロデューサーは、松田さんをキャスティングした理由について語っています。過去のドラマの新聞記者の多くは「熱血漢であり、ともすれば、暑苦しい議論好きな男たちでした。今回の主人公は、かつてとは違う、静かな正義感を持つ新聞記者像にこだわり、その役を演じていただけるのは松田龍平さんしか思いつきませんでした」(2019.8.24スポーツ報知)。

 今や松田さんは小説家役やジャーナリスト役に一番似合う男優、とも言えるのではないでしょうか。

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