4年に一度の五輪に毎回、多くの選手を派遣する企業の担当者はこう語った。
「選手がアスリート人生を賭けた結果に対する報酬ということで会社としては重要視しています。しかし、競技によって事情は違うから、ひとくくりにいくらという設定はできません。選手との契約の中身にも関わるので、どういう基準で報奨金の額を決めているかは公にはしておりません」
◆「お金じゃない」は建前か
4年前のリオで112年ぶりに復活したゴルフでは、ジカ熱への懸念もあって、松山英樹(27)をはじめトップ選手の辞退が相次いだ。ゴルフの世界一を決する舞台といえば、マスターズなど4大メジャーであり、その優勝賞金はおよそ1億円強。賞金のない五輪よりも、シーズンの戦いを多くのゴルファーが選択した。
しかし、東京五輪に人一倍の意欲を見せているのがタイガー・ウッズ(44)だ。米ツアーで歴代1位タイとなる通算82勝(メジャー15勝)のウッズからすれば、唯一手にしていない五輪金メダルこそ、無償でも価値があるタイトルなのだ。
ウッズの例からもわかるように、メダルの価値はお金には換えられない。しかし、競技を続ける上で必要な費用をどう捻出するかという問題に直面しているアスリートもいる。昨年、テコンドーの代表選手が強化合宿への参加をボイコットする事態にいたったのは、強化合宿の自腹参加を協会が強制したことが背景にある。
JOCからの強化費は、メダルが有望な競技団体に重点的に分配されてきた。強化費が十分ではないマイナー競技では、“赤字”を出しながら競技を続けざるを得ない選手も少なくない。そうした負担は、メダルを獲得し、報奨金を得ることでようやく補填ができるというものだ。
「オリンピックは参加することに意義がある」と言ったのは、近代五輪の父と呼ばれるクーベルタン男爵だが、様々な“価値判断”から「メダルを獲ってこそ意義がある」と考えている選手もいるのではないか。(文中一部敬称略)
※週刊ポスト2020年1月17・24日号