だが今、江頭に嫉妬する人はいない。なぜなら、彼は「自分にもできそう」と思わせるようなことを決してしないからだ。1本目の動画では尻に筆を突き刺し、震えながらチャンネル名を書道した。2本目の動画ではペットボトルロケットを股間で止めた。バレンタインデーに更新された動画では、コーヒーチェーンの英語綴りを正確に書くクイズにチャレンジ、ことごとく失敗し、罰ゲームとして口にくわえたシュノーケルから正解できなかったチェーンのコーヒーを注がれ熱さに吹き出していた。
これらを観て、誰が「楽そうだなぁ」と勘違いできるだろうか……。視聴者は挑み続ける芸人・江頭2:50を尊敬する。そして「いつまでも活躍してほしいし、活動費もカンパしたい」と願い、チャンネル登録ボタンをクリックする。動画のコメントにはたびたび「いつもなら広告スキップするけど、エガちゃんねるの広告は最後まで見る」というサポーター宣言が書き込まれる。
YouTubeにおけるチャンネル登録とは、無料ファンクラブへの入会みたいなもの。匿名かつ気軽にできる点が魅力だ。周囲に「自分がエガちゃんのファン活動をしている」と知られる心配もない。そして、SNSやコメントでサポートすることに喜びを感じられる。『エガちゃんねる』が爆発的人気を得られた理由の一つとして、周囲の目を気にせず本心をうちあけられるSNSという媒体が関係している。
今、視聴者は芸人・江頭2:50の代名詞である「レギュラーよりも一回の伝説」をリアルタイムで体験している。ネットで広まっている江頭の伝説は、今の言葉で置き換えると”バズる”といったところか。生で伝説の目撃者となる恍惚は、テレビよりも距離が近いYouTubeでより顕著になった。そして、視聴者も伝説を共に作っている。
チャンネル登録数100万人達成までのスピードが女優でモデルの本田翼の記録を超えた。『「ぷっ」すま』で長年共演していた草なぎ剛のYouTubeチャンネルと同日にチャンネル登録数100万人達成した。これらは視聴者が参加したことで誕生した新たな江頭伝説である。そして過激な動画ゆえに広告審査に落ちる、これも同様に伝説だ。
ただし、江頭2:50は高評価のまま終われない天邪鬼な芸人。いつか、自らの手で視聴者を裏切るようなことをしでかすだろう。トルコで過激なパフォーマンスを披露したことにより強制送還され、国際問題になりかけたこともある。日本でもイベント中、アクシデントではあったが全裸になり書類送検された経験を持つ。
伝説とやらかしを振り子のように行き来する江頭2:50! 今後も予想できない動画を作っていくことだろう。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで月一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)