2009年WBCに際し、守り勝つ野球が信条の野村氏は、強打が売りの城島健司(当時・マリナーズ)を侍ジャパンの原辰徳監督がレギュラーに起用することで、そこに「敗因が生じかねない」(同年3月6日号掲載)と語っていた。WBC開幕後も0対1で敗れた第1ラウンド韓国戦での失点の理由を「城島の配球ミス」と指摘。
すると、二次リーグ初戦のキューバ戦で6対0と完封勝ちした後、城島は報道陣に「1点でも取られると野村さんは捕手のせいにするからね。厳しいね、野村のおっちゃんは」「配球が悪いといわれたので『野村ノート』(野村氏の著書)で勉強した」と皮肉たっぷりにコメント。
直後のインタビュー(同年4月3日号掲載)で野村氏は、あくまで指摘したのは韓国戦の失点した場面での配球であり、「城島が言っているような試合全体のことではない」とため息交じりにボヤいた。その上でこう続けた。
「ピッチャーは攻撃的なプラス思考が多いから、キャッチャーは危機管理型のマイナス思考がいい。これがひとつになってプラスとマイナスでバッテリー(電池)になる。プラスとプラスではだめ。城島は典型的なプラス思考だから、うまくいかないね」
もちろん、実力を認めているからこそ厳しい言葉が出る。野村氏は「人間は無視、称賛、非難という3段階で試される。三流の人間は相手にされず、二流の人間はおだてられるだけ。一流と認められて初めて非難されるんです。城島が三流のヘボキャッチャーならオレは何もいわないよ」とも話し、笑っていた。その城島氏が今季からソフトバンクの会長付特別アドバイザーに就任し、指導者の側に回ったことも、時の流れを感じさせる。
※週刊ポスト2020年2月28日・3月6日号