野村克也さんと対談する江本孟紀氏(撮影:山崎力夫)

◆長髪とヒゲを大嫌いだったワケ

 ノムさんが凄いのは主役だけでなく、脇役もうまく使っていたことです。南海には代打の青野修三、ヤジ将軍の大塚徹、サインの伝達役に堀井和人など、ベンチの前列にそれぞれ独自の役割を持った選手を配していた。青野さんは7回からしかベンチに姿を見せなかったですけどね。当時から、「適材適所」が口癖でした。

 ミーティングの細かい話は居眠りしたりしてボクはあまり聞いていなかったですが(笑い)、基本的な考え方は大いに勉強になりました。ボクがノムラ野球の凄さを痛感したのは(1976年に)阪神へ移籍した後のことです。セ・リーグでは巨人のON(王貞治氏・長嶋茂雄氏)と対戦しないといけないが、ピッチャーから見たら王さんは欠点がないんですよ。その時にノムさんの「長所のそばに欠点がある」という言葉を思い出した。

 王さんの長所は一本足打法にあります。足の上げ方を変えて、それぞれのピッチャーのタイミングに合わせている。だから、その裏をかくことを考えるようになった。それが後々、王さんを攻略するヒントになったのは間違いありません(江本氏に対する王氏の通算打率は1割3分4厘)。

 あと、印象に残っているのはノムさんが長髪とヒゲを大嫌いだったこと。ボクが南海に移籍した頃はまさにそのスタイルでしたからね。キャンプ前にマスコミを集めてミナミの理髪店で断髪式をやらされましたよ。ノムさんの言うことを唯一、素直に聞いたのがそれかもしれません。解説者になってからも、神宮球場で広島の菊池(涼介)がヒゲを生やしているのを見て「おーい、おまえ、ヒゲを剃れ」とやっていましたね。名前がわからなかったんでしょう(笑い)。

 ただ、ノムさん自身がもともと嫌っていたかというと、そうでもなかった。影響を受けた人がいたんです。サッチー様(沙知代夫人)ですよ。この人が、長髪とヒゲが大嫌いだった。あと、プロゴルファーの杉原輝雄さんがノムさんの大親友で、やはり長髪やヒゲを好まなかったそうです。この2人の影響を受けて、ノムさんがボクに言ってきた。それが、後年になって知った真相です。

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