まず、2002年11月に流行開始し、2003年7月に終息したSARSは、潜伏期間や発症初期の患者の感染力は比較的低かったとみられている。患者が本格的な感染力を持つのは、発症して肺炎に至る約5日後からといわれる。このため、発症前感染者や発症初期の患者の隔離を徹底することで、感染拡大を食い止めることができた。その結果、短期間で感染の終息に至ったとされている。
いっぽう、2012年9月に初めて患者が報告されたMERSの場合は、SARSに比べて重症化しにくく、不顕性感染者や軽症感染者が一定割合いる。不顕性感染者からの感染力がどの程度あるのか、現在もよく分かっていない部分はあるが、とにかく隔離は必要とされている。ただ、残念ながら潜在的な感染者からの感染は続いているようだ。中東地域で、いまだに感染が終息しない背景には、こうしたことがあるとみられている。
インフルエンザの場合も、潜在的な感染者が問題となりやすい。インフルエンザに感染して症状が出ても、通常の風邪と見分けがつきにくい。このため、なかなか病院に行って診療を受けず、少々無理をして会社や学校に来てしまう。こうした行動により、感染が拡大しやすいといわれる。
それでは、今回の新型コロナウイルスはどうか。現状では、不顕性感染者や軽症感染者が一定程度いるとみる研究者が多いようだ。感染拡大のペースを落ち着かせるためには、潜在的な感染者からの集団感染を防ぐことが必要となる。なお、感染の実態解明に向けては、引き続き、疫学や病理学の調査・研究が進められるだろう。